第13回 学生から社会人への乗り越えかた

 「教えてもらっていません!」。その言い方は、だからできなくて当然で、注意されるのは不本意だ、と言わんばかりの口ぶりだったんです。こっちも忙しい中でアドバイスしているわけで、やっぱりイラッとします。ついつい、強い口調で「だから“今”教えてるでしょ!」なんて言ってしまい、後から大人気なかったと後悔したり…。

 新人育成にかかわっている友人との雑談で聞いた新入社員のエピソードです。「はい、わかりました」と言えばいいだけなのに、どうしてその一言が言えないんだろう。そう言って、ため息をつく彼女の気持ちはよく分かります。でも、言い返してしまう新入社員の気持ちも、ちょっとだけ理解できるのです。

 4月になり、多くの若者が新社会人としてのスタートをきりました。厳しい就職活動を乗り越えて、今日という日を迎えたわけですから、誇らしくやる気に満ちた心持ちでいることでしょう。

 しかし、やる気だけでは仕事はできません。まずは、OFF-JTとして新入社員研修を受けるケースがほとんどでしょう。研修で一定の知識を得ても、仕事を任せるのはまだまだ先です。OJTとして先輩や上司から仕事を教えてもらい、経験を積みながら徐々に一人前になっていきます。

 冒頭のエピソードのように、新人に対してストレスを感じるのは、このOJTで直接彼らを指導するタイミングに多いのではないでしょうか。たとえば、「言われたことはきっちりやるが、言われたことしかやらない」「できると言うので任せてみたら、修復困難な状況になるまで独りで抱え込んでいた」など。私たち大人の想定外の行動をする新人に、複雑な感情を抱くことも少なくないはずです。

 しかし、程度の差こそあれ、いつの時代にもこうした新人ネタというのはあります。語り種となる人物も毎年のようにでてきます。ですから、一概に最近の新人の質が劣っているとは言えません。ただ、問題を感じる彼らの行動の要因には、今どきの学生の特徴があるように感じます。

 特徴の1つをあげてみましょう。それは、彼らが実社会に対して、必要以上の「怖さ」を感じているということです。社会人という新しい世界に飛び込んだわけですから、ある程度の「怖さ」があるのは当然です。しかし、実力主義・成果主義でシビアに自分の能力が判断される。できないヤツと思われたら、いつリストラされるか分からない!社内といえどもヘタに弱みは見せられない。そんな思い込みから、実態以上の「怖さ」を感じている新人は少なくないように思います。

 また、学校社会と実社会の違いも彼らを混乱させます。
 実社会では、OJTとして仕事のプロセスをこなしながら、日々小さな失敗をして、学び成長していきます。しかし、学校社会では、インプットとアウトプットは明確に分かれています。昨今の大学では、シラバス(講義計画)が厳密化していますから、インプットする授業内容や評価方法は全て事前開示されています。それに則ってインプットをして、どれだけ定着したかを試験やレポートで評価します。全てルール通りです。明確にされているインプット対象の再現性の高さによって、アウトプット(自分の能力)が決まる。だから、教わっていない仕事で失敗したからといって注意されるのは、彼らにしてみれば不当にマイナス評価を受けた感じがするのかもしれません。

 アドバイスにムキになって言い訳したり、周囲からの評価に過剰反応したり、失敗を避けるため必要以上のことに手をつけなかったり、能力があると見られたくて失敗を隠したり…。こうした保身や他責姿勢、萎縮といった問題行動の背景には、シビアな実社会に対する「怖さ」と、評価プロセスの違いが影響しているのではないでしょうか。
 
 当然ですが、だから彼らのすることを肯定してほしいと言っている訳ではありません。ただ、必死さゆえの行動が、逆に成長の妨げになるのは残念です。①彼らが感じている「怖さ」の原点を理解すれば、よりスムーズに関係構築できるかもしれない。②今までとは異なる方法で成長・評価されることを新人が理解すれば、その後の伸びしろが違ってくるかもしれない。もし、皆さんの身近に新人が配属されたら、この2つを頭のスミに入れて接していただければ幸いと存じます。

 今年誕生した多くの新社会人が、現場で大きく成長することを願ってやみません。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。