2月に入り、2013年卒生の就職相談が増えてきました。この時期は、ちょうどエントリーシートの提出が始まるタイミング。添削希望の相談が多いのです。何を書けばいいのか分からず、書きすすまない自己PR。企業理念まる写しの志望動機。スタート早々から、学生は高い壁にぶつかっています。
しかし、エントリーシートに目を通すと、添削という高度?なレベルの相談にならないケースが間々あります。日本語としておかしくないか、意味がちゃんと通じる文章になっているか…。まずは、そこからチェックしなければならない学生が少なからず存在するのです。
最近のエントリーシートから、「気になる日本語」をまとめてみました。
●あるべきことろに読点「、」がない
例:『部活をやったりアルバイトをやったりして充実した学生生活を送りました。』
●話し言葉が多用されている
例:『~なんで(~なので)』『~とかをがんばりました(~などをがんばりました)』
『~をさせていただきました』
●主語と述語の関係が変、
例:『私は、~努力できることです(私のPRポイントは、~努力できることです)』
●「てにをは」などの助詞がおかしい
例:『貴社に志望する理由は~(貴社を志望する理由は~)』
●部首を間違える
例:『高校の項(~の頃)』『復数(複数)』『成積(成績)』『記億(記憶)』
●覚え間違いをしている
→『源動力(原動力)』『責極的(積極的)』『専行(専攻)』『成作(制作)』
携帯メールの文章は、話すように言葉をつなげていきます。それに慣れすぎてしまったことが、おかしな日本語を書く要因の1つでしょう。また、本や新聞など、正しい日本語を読む機会が減っていること、直筆で文字を書く機会が減っていることなども、要因として考えられます。
- 掲載日:2012/02/06
第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
日本語の体裁が整っても、苦慮する点はまだまだあります。例えば、言葉の解釈のズレです。
『私の強みは素直さです。言われたことは、どんなことでも素直に従います。辛いことでも、イヤなことでも、素直に行動できるので、貴社に貢献できる自信があります(原文まま)』。実際にあった学生の自己PRです。
志望する企業の採用ホームページに、求める資質として「素直さ」と書かれてあったそうです。そのため、この学生は、上記のような自己PRを考えたのです。しかし、企業が求める「素直さ」と、学生がPRしている「素直さ」には、明らかにズレがあります。
企業のいう「素直さ」は、例えば、自分のやり方に固執せずに、周囲のアドバイスを受け入れることができる「素直さ」であったり、分からないことは、恥をかいても「分かりません」と言える「素直さ」でしょう。しかし学生は、ひたすらハイハイと従う「素直さ」をPRしています。
同様のズレは、他にもたくさんあります。
●協調性
何も主張せず、人に合わせて行動していた
●粘り強い
状況を変えようとせず、ひたすら我慢して、耐えていた
●継続力
続けることに困難もなく、ただ惰性で続けていた
●主体的
人から言われた課題を、工夫して自ら取り組んだ
どれも自己PR文では、よく目にする言葉です。しかし、言葉が内包するイメージの解釈には、企業と学生で明らかにズレがあります。このズレが解消されない限り、なぜ自分のエントリーシートが評価されないのか、理解することはできません。自己特性のどんな点が評価されやすいのか、強みを見つけることができないのです。
このズレの根っこは、何なのでしょう。1つには「能動」と「受動」の違いにあるような気がしています。
多くの学生は、既存のルールのなかで生活しています。ルール自体に疑問を感じても、あまりルールを変えようとはしません。それよりは、与えられたルール下で、できるだけ快適に過ごす方策を探します。彼らは、受動的な対応には長けていますが、ルールを変化させるような能動的な対応には慣れていないのです。それが、ズレの発生源なのではないでしょうか。
高校までとは違い、自由度の高い大学生活では、受動的立場から能動的立場に移行する良いトレーニング機会が得られるはずです。しかし、昨今は面倒見の良い大学が増えています。大学だけでなく、社会全体が自ら手を挙げずとも困らない環境が整っています。学生が能動的に行動するトレーニング機会は、減る一方です。
社会のさまざまな出来事に対して、受け身でいられる学生から、当事者である社会人へ移行する。この立場の違いを理解できれば、エントリーシートに関するアドバイスはほぼ終了。いつまでも、手取り足取り指導していたら、永遠に受け身気質から抜け出せなくなってしまいます。
彼らの就職活動が、学生から社会人に脱皮する良い成長の機会になることを願ってやみません。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント