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第49回 受け身の合理性

 今春入社した新入社員は、研修期間を終えて、そろそろ各現場に配属された頃でしょうか。毎年のことですが、メディアでは「とんでも新人」ネタが取り上げられ、飽きもせず驚きのエピソード!として紹介されます。

 この間まで学生だった新人と、社会人の“当たり前”感覚にはズレがあって当然です。このズレが職場に笑いをもたらし、微笑ましいエピソードとして語られるのであれば、好ましい新人効果の1つといえるでしょう。

 笑えるうちは問題ありません。しかし、適当な時期までに組織社会化(新しく加わったメンバーがコミュニティーに適応していくこと)を図らないと、環境不適応で早期退職…といった笑えない事態になりかねません。

 新人の組織社会化をうながすには、彼らが今までいた世界の“当たり前”感覚を理解し、受容する必要があるでしょう。でなければ、ズレを調整するための育成支援も難しいはずです。

 「そんなことしなくても、一緒に職場で過ごし、仕事をしていけば、自然と適切な行動や考えは身につくもの」。そう思っている方が、少なくないように思います。しかし、それがすでに“当たり前”感覚のズレといえます。

 以下の調査データ(※)をご覧ください。

「大学教育観について」の図表

 大学での学習方法を教えてほしい学生が、8年前より1.3倍に増えて、半数を超えました(50.7%)。学生生活でも、指導・支援を希望する学生が約4割。これは8年前の2.5倍です。彼らは自由を使いこなせず、持て余しているのでしょう。高校より裁量権が増えたことを喜ぶ学生は減り、具体的な指導を求める学生が増えました。

 以前、主体性の大切さを学生に語り、「自分で考え、行動することの大切さが分かりました!」とコメントしてくれた学生が、「この授業にノートは必要ですか?」という質問をしてきました。互いの溝の深さを実感した経験です。

「保護者との関係について」の図表

 保護者との関係でも、同様の傾向が読み取れます。“B(自分で決める、自分で解決する)”を選ぶ学生は、あまり減少していませんが、“A(保護者に従う、保護者が助けてくれる)”を選ぶ学生が、2.5倍近く増加しています。

 保護者の意見(干渉?)を、疎んじることなく、有用なアドバイスとして受け入れる学生は珍しくありません。大学でも、保護者のニーズを重視し、反映させた支援が増えています。こうした環境下で、彼らは学生生活を送るのです。困ったときはアドバイスを求め、それに従うことで、物事がスムーズに進むという成功体験が彼らの中に蓄積されていきます。私が『受け身の合理性』と呼ぶ彼らの行動様式は、こうして定着していきます。

 アルバイトで社会経験をすれば、少しは主体性が育つのでは…。そんな意見も聞きますが、あまり同意できません。多くの学生がアルバイト先にしている小売店や飲食店は、チェーン店化が進み、仕事はルーティン化しています。余計なことをすると怒られる。言われたことを、言われたようにこなすことが推奨される。ここでも『受け身の合理性』は強化されていきます。

 いまどきの若者は「言われなければ動かない」と、苦言を呈する方がいますが、彼らにとっては、言われることが動くための前提条件です。この責を本人に問うのは、少し酷でしょう。人は、育てられたように育ちます。彼らは、彼らなりに環境適応して、周囲の支援を上手く使いこなしています。その結果の『受け身の合理性』です。彼らの“当たり前”感覚を一旦認めてあげないと、スタートラインから不当に低く評価されているように感じてしまうでしょう。

 学校と実社会は異なる世界です。新しい世界への移行を、私はよく「変態」に例えます。オタマジャクシからカエルになるぐらい大きな変化ということです。オタマジャクシのときは当たり前だったことが、カエルの世界ではNGと言われる。そんな理不尽さを、今まさに感じているはずです。このズレを丁寧に言語化して、彼らへのアドバイスに転化できれば、スムーズに「変態」をうながすことができるでしょう。

 前述したように、彼らの育った環境を考えれば、ほっとけば自然に「変態」する、といった以前のやり方は通用しにくくなっています。しかし、適切な支援を提供すれば、彼らの適応能力は低くはないので、求められる行動様式を身につけていくでしょう。

 とはいえ、組織社会化に必要な時間は、個々で異なります。器用になじむ者もいれば、ゆっくりと時間をかけて身体に染みこませる者もいます。そして、器用になじめる人材だからと言って、業務遂行能力が高いとはいえないでしょう。新人という「変態」期は、社会人における特殊な期間として捉え、個々の能力評価とは分けて考えた方が良いように思います。

 数ヶ月後、新しい世界の生活に慣れ、本当の意味で育成のスタートラインにたった彼らを早く見たいものです。

ベネッセ教育総合研究所「第3回 大学生の学習・生活実態調査」(2016)

【掲載日:2018/04/09】

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キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。

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