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第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い

 学生のふとした行動を見ていて、「なるほど~」と彼らの特性に思い至ることがあります。今回は、グループワークを見ていて納得した思考・行動パターンをお伝えします。

 学生に実施してもらうキャリアワークの1つに、チームでレポート作成するといったものがあります(採用とは全く関係のないものです)。

 チーム分けやスケジュールなど、一通りの説明が終わった後は、ほぼ学生にお任せでワークを進めていきます。すると、始まってそこそこに役割分担をし始めるチームが出てきます。厳密に言えば、役割分担ではありません。パート分担です。メンバーが6人なら、スペースに配慮して全体を6等分します。次に、おもむろに“ジャンケン”をして、勝った人から自分のパートを決めるのです。話し合いはこれで終了!ものの10分もかからずに終わるチームもあります。私が「まだ時間はあるよ。話し合い終了で大丈夫なの?」と聞くと、満面の笑みで「完璧です!」と返事をしてくれました。結局このチームは、各自の完璧な個人作業でチームレポートを完成させました…。

 自分たちはレポートで何を伝えたいのか。それを踏まえて、どの項目に一番注力すべきなのか。どこに行けば必要な情報は得られそうか。調べる方法は他にないのか。データ集計やグラフ作成といった実作業が得意な人はいるのか…。話し合いを通じて、様々な意見を出しあい、考え、決断した上で、メンバーの強みや個性を生かした役割分担…というのは、あまり見たことがありません。

 少しグループワーク慣れしたチームだと、持ち寄った情報をもとに会話が成立します。喧々諤々とした話し合いではありません。それぞれの意見を発表しあい、感想を述べる程度です。その後、おもむろに“多数決”を行ない、支持が一番多かった人の意見が採用です。レポート制作は粛々と進んでいきます。

 A意見とB意見を比較したり、共通性を見いだしたりしながら、別案を考え、クリティカルな意見も加味して、新しいCという意見を生みだす…と言うような生産性の高い話し合いは、稀だと言えるでしょう。

 蛇足ですが、前述の様子はイメージしやすいように少し単純化して伝えています。ちゃんとした話し合いになっているチームも存在します。それでもあえて言い切るとすれば、学生の話し合いは「ジャンケン」と「多数決」で進んでいくと言えます。

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 この思考・行動パターンから感じるのは、「(半径3m以内の)過剰な気配り」と「個性尊重のルール」です。

 「(半径3m以内の)過剰な気配り」は、スクールカーストのなかで、いじめに遭うことなく平穏無事に過ごすために、彼らが身につけてきた処世術です。以前“褒め言葉を書く”というワークをやったとき、「相手次第で、カワイイも褒め言葉にならないので書けない」と言ってきた学生がいました。それだけ相手の好みや状況を把握した上で、不快にさせない、慎重かつナーバスな対応をしているのです。コミュニケーションに相当な気力と体力を要するのも理解できます。できるだけ初対面の人との会話を避け、半径3m以内の関係性にとどまりたくなる気持ちも分かります。

 「個性尊重のルール」という言葉は、それ自体にあまり問題は感じません。気に掛かるのは、個性が意味する範囲が幅広いということです。先天的に変わりにくい気質や価値観などを、個性として尊重することに何の異論もありません。ただ、グループワーク時の意見も個性であり、それを否定するのはアンタッチャブル!…では話し合いが成立しません。意見に対する反論は、個性の否定とは異なります。(言い方に配慮は必要ですが)反論によって話し合いはより深まっていきます。個々の意見まで個性と捉えていては、互いに触りにくくなってしまいます。

 2つの思考・行動パターンを踏まえれば、「ジャンケン」と「多数決」は、初対面同士の話し合いにおいて最強の道具と言えます。互いの顔色を見ながら、気力と体力を酷使する必要がありません。自分の意見が採択されないことはあっても、否定されることもありません。合理的な決め方であり、彼らの理屈に合った方法と言えます。

 しかし、ビジネスの理屈には合いません。相手の満足を得ることでビジネスは成り立ちます。その“相手”は、自分と親和性が高い人ばかりではありません。自分の個性(≒意見)を尊重してくれる人ばかりでもありません。ビジネスでは、多様な相手を満足させる必要があります。半径3m以内の部分最適ではなく、ステークホルダー全体を踏まえた全体最適を考える視点が必要でしょう。

 この春入社した新社会人も、そろそろ研修を終え、配属される頃でしょうか。学生の思考・行動パターンから脱却するには、日々のOJTが有効でしょう。もし思い当たる点があれば、OJTの育成ポイントの1つに入れていただければ幸いです。

【掲載日:2015/04/13】

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最近の学生気質

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キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。

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