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第27回 「分かり合えない」のが普通

 先日、通勤電車で隣に座った男性が、真剣に本を読んでいました。20代後半でしょうか。私から見ればまだまだ若手!と感じる年齢です。近ごろは電車で読書をする人が少ないので、赤ペンで下線を引きつつ、熱心にページをめくる姿に感心しながら、何を読んでいるのかが気になりました。

 ちょっとお行儀が悪いと思いながらも、横目でちらっとのぞいて見ると“新入社員”“接し方”という文字が目に入ってきました。「えっ!」という感じです。ほぼ同世代なのに、HowTo本を読むほど、新入社員とのコミュニケーションに不安を感じていることが、意外だったのです。

 「ダイドー働く大人力向上委員会」が行なった、20~50代の働く男女1,000名対象の『職場コミュニケーションに関する意識調査(※)』というアンケートがあります。それによれば、「新入社員に対して不安を感じる人」は46.7%と約半数を占めます。20代でも男性36.6%、女性48.7%が不安を感じています。そして、不安の内容の上位2つが「何を考えているか分からなさそう」「上手くコミュニケーションがとれなさそう」でした。世代に関係なく、新入社員との意思疎通、コミュニケーションには不安を感じる人が多いようです。

 新入社員に対する不安の背景には、彼らの中に残っている“学生”という、社会人とは異質なものが関係しているように思います。それなら、日々学生と接し、彼らとの関係づくりに思考錯語している経験が、何かの役に立つかも知れません。今回は、学生や新入社員とのコミュニケーションについて、私なりにまとめてみました。

 最初に結論めいたことを言ってしまえば、「分かり合えない」という姿勢に終始すること、「分かり合えない」のが普通で、その上で理解し受けとめること、となります。

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 大学生のキャリア支援・就職支援では、学生を社会人へと移行させるため、変化を求めることが多々あります。「実社会ではこうなんだよ」と、社会人としての感覚や、ものの見方などを伝えていくプロセスです。このとき、アドバイスと称して、社会人の(もしくは自分の)価値観を押しつけてしまうことがあります。その心底には、自分たちと同質化することを求める思考があるように感じるのです。

 学生気分が残っているうちは、分かり合えなくて当然。でも社会人化がすすめば、徐々に分かり合えるはず。分かり合えるようになったら一人前…。そうした同質化を求める気持ちはごく自然で強いものなので、知らず知らずに言葉を発してしまいがちです。

 学生にアドバイスをするときは、「10~20年後の社会でも通用しそうか?」という問いかけを自分自身によくします。時間的強度が高いと判断すれば、アドバイスとして伝えますが、迷うときは「今の社会では○○です」などと、限定法で伝えることを心掛けています。

 いま大学生の彼らが、実社会のリーダー的存在となって仕事をしている10~20年後。どんな課題があり、何を解決しなければならない社会になっているのか。私には想像がつきません。ただ、いまの社会に過剰適応した人材ばかりではマズイだろうな~と思うのです。

 ですから、新卒採用でイノベーター(革新者)を求める昨今の動向には共感します。しかし、思うような人材はなかなか採用できていないようです。ターゲットとなる学生が少ない、ということもありますが、選考する側が知らず知らずのうちに、分かり合えそうな人材を選択していることも一因ではないでしょうか。

 暗黙知が通じる人、自分の「当たり前」が通用する人、似た価値観を持っている人とは、少ない労力で意思疎通が可能です。同質性が高ければ高いほど、効率よく高速なコミュニケーションをはかることができます。反対に、暗黙知が通じない人、自分の「当たり前」が通用しない人、違う価値観を持っている人とのコミュニケーションは、手間がかかるし、面倒です。イノベーターのみならず、ダイバーシティ化がなかなか進まないのも、同質化を求める傾向が影響しているのではないでしょうか。それぐらい、自分と異なるものを受け入れるのは大変なのです。

 だからこそ、分かり合えなくて当然、それが普通、というスタンスでいることを大切にしています。自分と異なれば、理由を聞き、時間的強度を鑑みてアドバイスが必要だと思えば伝えます。しかし、彼らの言い分に一理あると思えば、自分が変わることを考えてみるのです。異質なものをできるだけ変えない。理解して受け入れる。そんな姿勢で接してからは、分かり合えないからこそ持ち得ている魅力が、よく見えるようになりました。

 この夏、インターンシップなどで学生と接する方もいるでしょう。「実社会では…」と社会人の価値観を伝えるのは最後にして、まずは彼らの話を聞いてみてはいかがでしょうか。「分かり合えない」ことが普通であり、それを前提としたコミュニケーションをすることで、新しい魅力が見えてくるかもしれません。


※職場コミュニケーションに関する意識調査
http://blend.dydo.co.jp/otona/_pdf/otona_20140512.pdf

【掲載日:2014/08/12】

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最近の学生気質

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新入社員の姿を見ると、「近頃の若い人は~」という台詞の使用頻度も高くなっているのではないでしょうか。いつの時代も世代間による価値観の違いはあるものです。先輩、上司として相互理解を図るためにも、最近の学生気質を探っておきませんか。
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キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。

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