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第24回 困難を選択する困難さ

 2015卒生の採用活動が開始となって2ヶ月以上が過ぎました。今年は、前年以上に、スタートからの「スピード化」と、選考の「早期化」が目立ちます。そのため、学生は例年よりも持ち駒(選考を受けるためエントリーした企業)が少ない状況で、本格的な選考に押し出されはじめました。

 同時に、「景気が良くなっていると聞いたんで…」と、学生は大手志向を強めています。ブランド力のある有名企業にばかりにエントリーを集中させて、アップテンポに就職活動を進めている学生も少なくありません。


 いま私が懸念しているのは、(大手企業の春採用が落ち着く)ゴールデンウィーク頃に、内定を得られず、持ち駒もなくなり、就職への意欲をすっかりなくした学生が、例年よりも数多く出るのではないか、ということです。

 気持ちをリセットするために、しばらくの間、就職活動から距離をおき、ちゃんとリスタートできれば、何の心配もありません。しかし、最初の挫折で離脱したまま、就職と向き合えなくなってしまう学生も相応にいます。

 「今の学生は打たれ弱い」「数社落ちただけで就活をやめてしまう」。そんな言葉をよく耳にします。実際に、3~4社の選考に落ちただけで、就職活動からリタイアしてしまう学生を見てきました。メンタルが弱いと言ってしまえば、その通りです。否定はしません。

 しかし、それはある意味やむを得ない…とも感じています。彼らからすれば、就職活動のように高い倍率の選考を経験するのは、生まれて初めてのことなのです。これまで、シビアに「落ちる」といった経験を、周囲の大人の協力によって、ことごとく回避してきた。回避できてきた。そんな世代です。

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 学生が経験する最も身近な選考は、大学受験でしょう。しかし、数字だけを見れば、そこで「落ちる」学生はほぼ存在しません。「全入時代」が話題になった2009年の志願倍率は1.17倍。その後も1倍ちょっとで推移しています。すでに、大学進学を希望すれば、どこかしらに席は存在する状況です。しかも、推薦やAO入試など、学力試験をともなわない選考で入学した学生は、私立大学で45%強と約半数にせまっています。

 誤解してほしくないのですが、本来の目的が成されているAO入試であれば、とても魅力的な入試制度だと思っています。とは言え、なかなか難しいのが実情です。体のいい学力試験回避制度となっている大学も少なくありません。

 もう1つ付け加えれば、大学の数が多すぎるという意見を聞きますが、これには懐疑的です。ルーティン化された労働は、すでに国内には少なくなっています。一定レベル以上の知的労働が主流です。それには高等教育が必要でしょう。

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(閑話休題)

 高校の指導でも、シビアな選考を回避させる方向に動きがちです。指定校推薦の枠には、一般入試で確実に合格できるレベルの学生ではなく、あえて学力的に厳しい学生を推すことで、より多くの学生が無難に入学できるようにする。そんな話しも聞こえてきます。

 さまざまな大人の事情とストレスを避けたい学生心理。その両者の思惑が一致することで、大学受験という選考は、ほぼ回避可能となりました。そして、先延ばしにしてきた「落ちる」というストレスと「就職活動」で向き合うことになるのです。

 かなり大雑把な競争率のイメージですが、大手中心の春採用では(エントリー人数に対して)数百倍という単位が標準的でしょう。人気企業ともなれば、数千倍も珍しくはありません。ちょっとした宝くじ並みの倍率です。

 これまで、シビアな選考をほとんど経験してこなかった学生が、いきなり「落ちて当然」というレベルの就職活動に臨むのです。頭では分かっていても、やはり「落ちる」ショックは大きいでしょう。それが数社続けば、自己への自信(自己効力感)など、あっという間に枯渇します。

 高校や大学の学生生活を通じて、選考のストレスに慣れ、打たれ強い人材になればいい。確かにその通りです。それが正論です。しかし、他人事なら言える正論も、身内や近しい関係となると難しいものです。

 今春大学生になる甥っ子の受験を見ていて、それを思い知りました。大学受験に向けて、いろいろと相談にのっていたのですが、秋口に「高校から推薦の話があったから」と、拍子抜けするほどアッサリと進路を決めてしまったのです。

 本人が「満足している」と言うのなら、それ以上口を挟むのは難しいものです。そして、受験のストレスから解放されてホッとしているのは、本人だけではありません。家族や私自身も同様です。「良かったね」。それ以上伝える言葉はありませんでした。

 目の前に楽な道が敷かれているのにもかかわらず、あえて厳しい道を選ぶというのは、思った以上に難しいものです。とは言え、就業経験のない学生が仕事を得ようとするとき、唯一のよりどころとなるのが、自分ならやれる!乗り越えられる!といった自己への自信です。そしてそれは、自らが乗り越えてきた困難を原資として育まれるものだと考えています。

 今の世の中、一見、楽して成果が得られる(得られるような気がする)サービスや商品で溢れています。それを横目にみながら、回り道のような困難を選択すれば、貧乏くじを引いてしまったような気持ちになるでしょう。あえて険しい道を選ぶ学生は、稀だと言わざるを得ません。そして、そこには少なからず周囲の大人の意向が反映されています。

 困難を選択する困難さは、これからさらに増していくでしょう。

【掲載日:2014/02/14】

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キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。

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