第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識

このところ、新卒採用の選考開始時期に関する話題が、メディアでよく取り上げられます。就職活動が、学業に影響を与えていることは、以前から言われていたことですが、日本貿易会が、選考開始を夏季休暇からに繰り下げる提言を出したことから、一気に社会問題として注目されるようになりました。

選考を繰り下げることについては、企業側も様々な立場があり、足並みを揃えるのは容易なことではないでしょう。企業だけでなく、大学も一枚岩とは言えません。ある私立大学の就職支援担当者からは、「大手が夏からとなると、ウチの学生の主戦場はそれ以降。うっかりしていると、すぐに年を越してしまう。そうなると学生とは連絡が取りにくくなるし、支援も難しい。今以上に未内定者が増えることは確実だろう」といった声も聞こえてきます。企業と大学という違いだけでなく、それぞれに異なる問題を抱えており、一様な制度化と言うのは、本当に難しい問題です。

新卒採用に関する問題は、多様な関係者がいるため、いつも様々な意見が飛びかいます。そして、どの意見を聞いても、いつも何かスッキリとしない感じが私の中に残ります。それは、当事者である「学生」の存在をあまり感じる事ができないからです。国や企業、そして大学(教員と保護者)が、学生本人に代って、よりよい良い制度について発言しあう現状は、何か少し違うのではないかと感じています。

当然、ルール(制度)自体を学生がつくれるわけではありません。それは、大人の役割です。しかし、当事者である学生の発言を聞くべき、学生自身も発言をすべきだと思うのです。

学生と接していて感じるのは、ルールに対して従順すぎる受動的な姿勢です。守るにしても、守らないにしても、まず与えられたルールありきで自分の対応を決めようとします。守るのであれば、キッチリ守る。守らないのであれば、ルールからひたすら目を背け、無視し続けます。

ある学生に「そんなに守れないなら、なぜルールを変えないの?」と問いかけたら、「そんなことしていいんですか?」と逆に質問されてしまいました。彼らにとって、大人が決めたルールは、受け入れるか、拒否するかしか選択肢がないようです。そして、その立場が楽だと感じています。「『(人から)~して下さい』と言われるのに慣れているので、『(自分から)~する』ことに慣れていない」とコメントした学生がいました。

社会に出れば、自分たちでルール(制度)を作ったり、変更していく行為を伴います。目的達成のため、何をどうしようかと考える行為が必ず必要とされます。しかし、彼らが育ってきた環境では、自らルール(制度)を作るという機会自体、あまり与えられてこなかったのでしょう。

もし今、大人たちが一方的に採用時期を繰り下げる制度を作ったとしても、学生の質を上げるという本来の目的が達成されるのか疑問に思います。新たな制度だけ与えても、企業が求めるような能動的人材の育成にはつながらないのではないでしょうか。制度も必要ですが、それと同時に、大人の入り口に立った学生本人に、考え・発言してもらう必要性を感じます。

大人が学生のための就活環境を整えるだけではなく、当事者である彼らからの発言を、もう少し待ってもいいのではないでしょうか。学生自身が発言できる場を作ることで、当事者意識や社会というコミュニティの一員になる意識も醸成されると思うのです。それが、大人へのトレーニング期間である大学生時代に必要なことの1つではないでしょうか。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。