この数年、大学3年時に夏季インターンシップへ参加する学生が増え続けています。5年前のデータを見ると、約15%の学生が主に大学を通じてインターンシップ先を見つけ、参加していました。しかし現在は、約40%の学生が就職情報サイトを通じて参加する、という規模にまで拡大しています(※1)。そのため、インターンシップを実質的な就職活動のスタートと認識している学生が多いようです。
そうしたインターンシップの拡大が、学生に新たな不安を与えています。それを実感した2つの出来事をご紹介しましょう。
- 掲載日:2010/10/12
第4回 インターンシップのひずみ
■海外ボランティア活動よりもインターンシップ?!
9月の終わり、国際問題について考えるサークルに参加している学生から相談を受けました。
「この夏、以前から興味のあったBOP(Base of the Pyramid)ビジネス(※2)について勉強するために、グラミン銀行が支援しているバングラディッシュへ行ってきました。現地で学べたことは多いと感じていますが、そのため1社もインターンシップに参加できませんでした。すでに就活に出遅れてしまったのでしょうか?私はこの夏の使い方を間違ってしまったのでしょうか?」
海外で活躍できるグローバル人材へのニーズが高まっている昨今、国外に出たがらない内向き志向の学生が多いことを憂いている人事担当者は多いでしょう。そんな大人から見たら、この学生の体験は確実に魅力的なものとして映るに違いありません。
それなのに、「就職活動に乗り遅れたのではないか」「就活生を対象としたインターンシップに参加した方が良かったのではないか」と不安がる状況は、なんだか本末転倒という感がありました。
■インターンシップで早々に戦線離脱
「今年は、学生相談の出足が早いんです」。ある有名私立大学のキャリアセンターの方が、ため息まじりに話をしていました。「就活生がキャリアセンターを有効活用しているのなら、歓迎こそすれ、困ることではないのでは…?」と聞くと、「大学3年生で、すでにメンタル支援が必要な相談が始まっているんです」との返事。
これまで、就活バーンアウト(燃え尽き現象)とでもいう状態に陥り、支援が必要になるのは、早くても年明けぐらいからでした。それが、大学3年の夏休み中から「就活に疲れた」と言って、キャリアセンターに相談に来る学生がいるらしいのです。その理由を聞くと、ほぼ全員が「インターンシップ選考で自信を失ってしまったから」とのこと。
夏季インターンシップ先を考える時期は、まだ就職を意識し始めたばかりで、全くと言っていいほど企業研究ができていません。ですから、本番の就職活動以上に大手企業に人気が集中しがちです。すると、本番よりもインターンシップの方が高い倍率を勝ち抜かなくては参加きないという、逆転現象が起きてしまいます。
闇雲に大手企業にばかりインターンシップを希望したある学生は、片っ端から選考に落ち、結局、全員参加できる1Dayインターンシップにしか参加できなかったと言って、キャリアセンターに相談に来たそうです。そして「自分は実社会から評価されるだけの能力が備わっていない。就職などできるはずがない」と言って、早々に就活離脱宣言(?)をして、何かしらの専門能力を身につけたいと、大学院への進学相談を持ちかけたそうです。
2012年卒生の就職活動は、まだ始まったばかりです。それなのに、すでに遅れをとったのではないかと不安がる学生。スタートラインに立つこともなく、戦線離脱した学生。『杯中の蛇影』のように、在りもしない影におびえる学生も困りものですが、それだけ強いストレスを与えている『就職活動』という存在も、その時期やシステムなど、見直す時期に来ているのかもしれません。
※1 文化放送キャリアパートナーズ・就職情報研究所「新卒採用戦線総括」より
※2 主として、途上国の低所得階層(年収3000ドル以下、全世界の人口の約7割、40億人)を対象とした持続可能なビジネスのこと。現地での様々な社会課題(水、生活必需品・サービスの提供、貧困削減等)の解決に資することが期待されている。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント