みなさんは、「大学生」という言葉からどんな若者をイメージしますか?
いわゆる進学校と言われる高校で、当然のように受験勉強をして、孤独でツライ受験を乗り越え、あこがれのキャンパスライフを謳歌。
ほどほどに勉強はするけど、それよりもサークル、アルバイト、合コンと忙しい毎日をすごし、恋愛したり、失恋したり、友人とバカ話したり、仲たがいしたりしながら、人間として成長。
イメージはさまざまだと思いますが、こんな「大学生」像を抱いている方は多いのではないでしょうか。
最近、就職問題を中心に「大学生」についての話題がメディアでよく取り上げられます。それだけ「大学生」に対する関心が高まっているのでしょう。さまざまな方が、さまざまな立場で、「大学生」についてつぶやいたり、論じたりしています。でも、冒頭の「大学生」像を含めて、語られる「大学生」に何か違和感があるのです。その原因は、語られる「大学生」と、いまの「大学生」にズレがあるからかもしれません。
「じゃ、いまの大学生ってどうなの?」と聞かれても、これが実に答えにくいのです。学力、学習習慣、生活スタイル、目的意識…。どれをとっても、いまの「大学生」の振れ幅は大きすぎて、一つの方向性をもって「大学生」を語ることができないのです。
- 掲載日:2011/08/09
第9回 「大学生」という言葉のズレ
■学力の振れ幅
振れ幅の1つとして、学力について考えてみましょう。
ご存知だとは思いますが、現在は、少子化と大学定員数の増加により、より好みしなければ誰でも大学生になれる「全入時代」です。以前なら大学生になれなかった学力レベルの若者でも、希望すれば大学生になれてしまいます。
イメージしやすいように、アラフォー世代の「大学生」と、いまの「大学生」を比較してみましょう。
(アラフォー世代の「大学生」として1990年データを使用)
(いまの「大学生」として2010年データを使用)
<大学進学率(4年制)>
- 1990年/24.6%→18歳人口の約4人に1人
- 2010年/50.9%→18歳人口の約2人に1人
つまり、アラフォー感覚の「大学生」に相当するのは、いまの「大学生」の半数しかしないわけです。もし、アラフォー感覚で、平均学力レベル(もしくはそれ以上)の大学生をターゲットに採用したいと考えた場合…
- 1990年/大学生の2人に1人が該当→(大学生人口が約50万人なので約25万人が該当)
- 2010年/大学生の4人に1人が該当→(大学生人口が約60万人なので約15万人が該当)
いまの「大学生」の上位25%でなければ、アラフォー世代がイメージする平均学力以上の「大学生」に相当しないことになります。
では、偏差値の高い大学の「大学生」なら安心かと言うと、そうとも言い切れません。偏差値も世代によってズレがあるからです。
偏差値は、同じ年度に受験する学生の学力分布で位置づけられます。つまり、世代が違えば、偏差値50が示す学力も異なるわけです。概算ですが、アラフォー世代の偏差値50は、現在に換算すると偏差値55-56程度になると言われています。
また、現在の大学偏差値は、AO入試や推薦入試枠を増やす(=一般入試枠を減らす)ことで、高く維持されているケースが多く見られます。同じ大学の「大学生」でも、入試経路によって、学力格差が大きくなっているのです。後輩が自社の選考を受けた際、筆記テストの結果に絶句した、という話を聞いたことがあります。学歴や偏差値が示す学力イメージは、アラフォー世代とは乖離していると考えたほうがよいでしょう。
学力の振れ幅の大きさは、学習習慣、学習意欲にも反映されます。私の経験談ですが、ノートも筆記具も持たず、手ぶらで講義に出席している大学生と遭遇したことがあります。一方で、Facebookを通じ、海外の友人と日常的に会話し、語学勉強などに熱心な学生もいます。「大学生」という同じ肩書きをもった若者でも、その学力傾向はつかみにくく、見えにくいものになっているのです。
■卒業後のキャリアの振れ幅
もう1つ、卒業後のキャリアの振れ幅についても考えてみます。
大学を卒業して企業に就職するなら、ホワイトカラーの正社員もしくは契約社員。意識せずとも、なんとなく、そんなイメージを持っていませんか。私自身も、そう思いこみがちです。
実際、「大学生」を採用する企業も、事業の中核を担う人材の確保と考えている場合が多いでしょう。
しかし、いまの「大学生」が考えているキャリアは、とても幅広くなっています。
ある女子学生は、ネイルアートが好きで、ネイルサロンでアルバイトを経験。それがきっかけで、ネイルの専門学校にWスクールで通い、ネイリスト技能検定2級を取得。すでに、アルバイト先では、数人のお得意様までいるというのです。ネイリストの新卒採用を探してみたが、正社員は少なく、今のお店でアルバイトのまま仕事を続けようか迷っている。そんな相談をうけました。
また、ある男子学生からは「植木職人のように手に職をつけられる仕事に就きたいが、情報サイトでは見つけられない」という相談がありました。同時に、職人のように体を動かす仕事に興味があるが、大学まで卒業してなぜ?という周囲の雰囲気が気になる、とも言っていました。
私たちは、「大学生」という若者像に、固定概念を持ちすぎているのかもしれません。
自分が大学生だったときの「大学生」イメージを、引きずりすぎているのかもしれません。
採用する側も、支援する側も、自分の「大学生」イメージが1つの若者像でしかなく、彼らが満足する就職先や職業の幅が、ずいぶん多様になっていることを認識する必要があるでしょう。
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- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
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- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
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- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント