第9回 「大学生」という言葉のズレ

 みなさんは、「大学生」という言葉からどんな若者をイメージしますか?

 いわゆる進学校と言われる高校で、当然のように受験勉強をして、孤独でツライ受験を乗り越え、あこがれのキャンパスライフを謳歌。
 ほどほどに勉強はするけど、それよりもサークル、アルバイト、合コンと忙しい毎日をすごし、恋愛したり、失恋したり、友人とバカ話したり、仲たがいしたりしながら、人間として成長。

 イメージはさまざまだと思いますが、こんな「大学生」像を抱いている方は多いのではないでしょうか。

 最近、就職問題を中心に「大学生」についての話題がメディアでよく取り上げられます。それだけ「大学生」に対する関心が高まっているのでしょう。さまざまな方が、さまざまな立場で、「大学生」についてつぶやいたり、論じたりしています。でも、冒頭の「大学生」像を含めて、語られる「大学生」に何か違和感があるのです。その原因は、語られる「大学生」と、いまの「大学生」にズレがあるからかもしれません。

 「じゃ、いまの大学生ってどうなの?」と聞かれても、これが実に答えにくいのです。学力、学習習慣、生活スタイル、目的意識…。どれをとっても、いまの「大学生」の振れ幅は大きすぎて、一つの方向性をもって「大学生」を語ることができないのです。

■学力の振れ幅

 振れ幅の1つとして、学力について考えてみましょう。
 ご存知だとは思いますが、現在は、少子化と大学定員数の増加により、より好みしなければ誰でも大学生になれる「全入時代」です。以前なら大学生になれなかった学力レベルの若者でも、希望すれば大学生になれてしまいます。

 イメージしやすいように、アラフォー世代の「大学生」と、いまの「大学生」を比較してみましょう。
(アラフォー世代の「大学生」として1990年データを使用)
(いまの「大学生」として2010年データを使用)

<大学進学率(4年制)>

 つまり、アラフォー感覚の「大学生」に相当するのは、いまの「大学生」の半数しかしないわけです。もし、アラフォー感覚で、平均学力レベル(もしくはそれ以上)の大学生をターゲットに採用したいと考えた場合…

 いまの「大学生」の上位25%でなければ、アラフォー世代がイメージする平均学力以上の「大学生」に相当しないことになります。

 では、偏差値の高い大学の「大学生」なら安心かと言うと、そうとも言い切れません。偏差値も世代によってズレがあるからです。
 偏差値は、同じ年度に受験する学生の学力分布で位置づけられます。つまり、世代が違えば、偏差値50が示す学力も異なるわけです。概算ですが、アラフォー世代の偏差値50は、現在に換算すると偏差値55-56程度になると言われています。
 また、現在の大学偏差値は、AO入試や推薦入試枠を増やす(=一般入試枠を減らす)ことで、高く維持されているケースが多く見られます。同じ大学の「大学生」でも、入試経路によって、学力格差が大きくなっているのです。後輩が自社の選考を受けた際、筆記テストの結果に絶句した、という話を聞いたことがあります。学歴や偏差値が示す学力イメージは、アラフォー世代とは乖離していると考えたほうがよいでしょう。

 学力の振れ幅の大きさは、学習習慣、学習意欲にも反映されます。私の経験談ですが、ノートも筆記具も持たず、手ぶらで講義に出席している大学生と遭遇したことがあります。一方で、Facebookを通じ、海外の友人と日常的に会話し、語学勉強などに熱心な学生もいます。「大学生」という同じ肩書きをもった若者でも、その学力傾向はつかみにくく、見えにくいものになっているのです。

■卒業後のキャリアの振れ幅

 もう1つ、卒業後のキャリアの振れ幅についても考えてみます。

 大学を卒業して企業に就職するなら、ホワイトカラーの正社員もしくは契約社員。意識せずとも、なんとなく、そんなイメージを持っていませんか。私自身も、そう思いこみがちです。
 実際、「大学生」を採用する企業も、事業の中核を担う人材の確保と考えている場合が多いでしょう。
 しかし、いまの「大学生」が考えているキャリアは、とても幅広くなっています。

 ある女子学生は、ネイルアートが好きで、ネイルサロンでアルバイトを経験。それがきっかけで、ネイルの専門学校にWスクールで通い、ネイリスト技能検定2級を取得。すでに、アルバイト先では、数人のお得意様までいるというのです。ネイリストの新卒採用を探してみたが、正社員は少なく、今のお店でアルバイトのまま仕事を続けようか迷っている。そんな相談をうけました。

 また、ある男子学生からは「植木職人のように手に職をつけられる仕事に就きたいが、情報サイトでは見つけられない」という相談がありました。同時に、職人のように体を動かす仕事に興味があるが、大学まで卒業してなぜ?という周囲の雰囲気が気になる、とも言っていました。

 私たちは、「大学生」という若者像に、固定概念を持ちすぎているのかもしれません。
自分が大学生だったときの「大学生」イメージを、引きずりすぎているのかもしれません。
 採用する側も、支援する側も、自分の「大学生」イメージが1つの若者像でしかなく、彼らが満足する就職先や職業の幅が、ずいぶん多様になっていることを認識する必要があるでしょう。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。