「面接で泣いちゃう男子学生をどう思いますか?」
5 月下旬、知人の新聞記者から、こんな質問を受けました。
新卒採用の取材中、ある中堅企業の人事から、面接中に泣き出してしまった男子学生の話を聞いたらしいのです。特に圧迫面接をしたわけでもなく、これまでの就職活動について質問しただけ。それなのに、男子学生は急に涙ぐみ、それ以後、面接にならなくなってしまったそうです。(まぁ、男女関係なく、面接で泣いた時点で結論は出ていたと思いますが…。)
「男子学生が泣くって、そんなに驚きますか?」それが私の最初の感想です。確かに面接の場で泣くというのは、少し特殊かもしれません。ですが、男子学生が泣くこと自体に、私はあまり驚きを感じなくなっています。
記者の話はさらに続きます。
取材した人事担当者の多くは、男子学生の元気の無さが目立つと言い、ため息混じりに、採用活動中の出来事を話してくれたそうです。いわく、営業を避けたがる。どうしても営業と言うなら、ルート営業がイイと言われた。飛び込み営業はムリと断言された。経理や人事など、内勤の専門職種を希望する男子学生が多い。一般職に応募することは可能かと質問された。
面接で泣き出す、営業を嫌がる、一般職にあこがれる…。
確かにこれだけ聞くと、昨今の男子学生に対して、嘆きたくなる気持ちはよく分かります。
大手企業の採用がひと段落したこの時期、就活を継続している学生は、すでに多くの負け戦を経験しています。エントリーした会社からは立て続けにお祈りメールをもらい(※1)、持ち駒も少なくなり、企業選びの方向性すら見失っている、そんな状況でしょう。
『今の学生はストレスに弱い』というご意見もあるかと思います。確かにそういう一面を感じることが私にもあります。ですが、今は就職情報サイトによって、アプローチする企業数が飛躍的に多くなっています。しかも、今年は就職氷河期の再来といわれ、危機感から100社以上エントリーしている学生も大勢います。30社以上にエントリーシートを提出(※2)したり、人気アイドルのチケット並に激戦と言われる会社説明会の予約をとったり、みん就(※3)などで選考連絡の状況を確認しつつ今か今かと待ち続けるような生活が、5ヶ月近く続いているのです。その結果、内定ゼロだとしたら、誰でも精神的にきついのではないでしょうか。(社会人でも、半年近く新規営業し続けて、受注ゼロって厳しくないですか?)
それでも、折れそうになる心を必死で支えながらなんとか内定を得なければと強いプレッシャーを感じながら就活を続けているのは、女子学生よりも男子学生に多い気がします。また、一生勤める企業を探すために、慎重に企業選びをしているのも男子学生に多いと感じています。
今の男子学生には、育ってきた背景に男女のタブーがあまりありません。シンクロナイズドスイミングや新体操にも男子部がある時代です。「男の子なんだから~」「女の子なんだから~」という表現で、行動に規制をされることも少なかったのではないでしょうか。そうした環境では、男が泣くのは恥ずかしいことだという価値観自体、もう古いのかもしれません。男が泣いたっていいじゃないという訳です。
しかし、そうしたジェンダーフリーの彼らも、職業観・就労観については古風な価値観を拭い去れてはいません。家族をちゃんと養える会社に入らなきゃ、一生勤め上げる会社を選ばなきゃといった根強い想いがあります。だからこそ、就活で失敗するわけには行かないし、新卒というブランドを活かせるこのタイミングでしっかりした会社に入らなきゃ、という強いプレッシャーを感じているのです。
育ってきた環境では、性別上の社会的役割を求められてこなかったにもかかわらず、就活という進路選択を前に、男性という役割を果たそうと、必死にがんばっている彼ら。でも、そのギャップが大きすぎて、背負いきれない男子学生も少なからずいるのでしょう。
そんな男子学生から、先日就活の相談を受けました。一生懸命に感情をコントロールしながら、必死に涙をこらえ、これまでの就活について語る男子学生。相当へこたれているにも関わらず、夏までには決めたいと、これからの就活について相談する姿を間近で見ていると、心底応援したくなりました。
確かに社会経験が少なく、幼く未熟な学生も多いと思います。でも、そこから成長しようと手を伸ばしている学生がいたら、その手を掴み、引き上げていくのも私達大人の役目なのではないでしょうか。
※1 落選時のメールの結びに、必ず○○さんの今後のご活躍をお祈り申し上げますと書かれていることから、落選の連絡のことを「お祈りメール」「祈られた」などといった表現で表す学生言葉。
※2 真っ白なスペースにあなたを自由に表現してくださいといったテーマが出されるような、かなり手間のかかるエントリーシートもあります。また、全て手書きで5枚に及ぶものを提出しなければならない企業もあります。
※3 『みんなの就職活動日記』が正式名称。就職活動における情報交換を目的としたネットワークサイト。「○次選考の通過連絡がありました!」などの書き込みで、選考の連絡状況を確認し、自分に連絡がくるタイミングを予想している学生も多い。
- 掲載日:2010/06/08
第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント