第7回 学生から社会人への育て方

このたびの東日本大震災にて被災された地域の皆様、関係の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
震災以降メディアからは、不安や哀しみを伝えるニュースが、連日のように報じられています。しかし、明るさや希望を感じる日常も始まっています。

4月の新年度スタートとともに、全国で数多くの新社会人が誕生しました。新入社員研修などを経て、皆さんの身近にも新人が配属されていくでしょう。こんな時期だからこそ、将来を担う新人たちをしっかり育成しようと、感じられている方も多いのではないでしょうか。

学生が社会人になるということは、とても大きな変化です。その変化のなかで、彼らはさまざまなギャップに直面していきます。新人が感じやすいギャップを、3つほどまとめてみました。

1つは、消費者と提供者という立場のギャップです。今まで、モノやサービスを享受する「消費者(お客さま)」の立場しか経験してこなかった彼らが、「提供者」になるのです。簡単なことではありません。クレームで好条件を引き出すという消費者行動を、社内でやれば、「文句ばかり言う」「できない理由ばかり並べる」と言われかねません。これまで、自分を有利にしてきた行動パターンが、全く通用しない。それどころか、否定的に受け止められてしまう。「提供者」として求められる行動パターンとのギャップに驚くのです。

また、「分かる」と「できる」のギャップも大きな障害です。研修で分かったことが、できるようになるまでには、意外と時間がかかります。新しい習慣が完全に身に付くには、3~6ヶ月かかると言われています。しかし、周囲も本人も、理解したことはすぐにできる、もしくはできて当然、と思ってしまいがちです。そして「分かる」と「できる」のギャップに、周囲も本人もイライラして、ストレスを溜めていくのです。

最後は、「志望動機」と現実とのギャップです。面接で「志望動機」は、必ず聞かれる質問と言っていいでしょう。学生は、何度も答えるうちに入社意欲が高まり、その気になっていきます。そして、内定が出たということは、自分の「志望動機」に少しは見るべきものがあるのだろうと思うのです。しかし、仕事経験のない彼らが語る「志望動機」は、絵に描いたモチでしかありません。現実は、それほど単純ではありません。配属も仕事内容も、自分の「志望動機」とはかけ離れていた。そんな厳しい現実を、多くの新人が味わうことになります。

様々なギャップを、新人は数ヶ月かけて、もがきながら乗り越えていきます。与えられる仕事も、しばらくは基礎トレーニングのような、地味で目立たないものが続きます。そんなシンドイ毎日を乗り越えるには、モチベーションが重要です。新人によく効くモチベーションの1つに、「こんな人になりたい」と思える先輩や上司との出会いがあります。

もし身近に新人が配属されたら、ぜひ「こんな人になりたい」と思われる、かっこいい先輩(上司)になってあげてください。仕事のスキルを教えるのは、それからでも充分間に合います。彼らの「かっこいい先輩(上司)」になれれば、成長に必要な耳の痛いアドバイスでも、彼らはちゃんと受け入れるはずです。

「かっこいい先輩(上司)」と言われても、具体的にどんな先輩(上司)なのか?当然、答えは1つではありません。就活生と接している私の立場で感じるのは、仕事に対するプライドです。自分たちの仕事が、どんな風に社会の一端を担っているのか、どんな影響を与えているのかということを、誇りを持って語る姿に、強いあこがれを抱くと感じています。
仕事の合間や、ランチ後の雑談でいいのです。新人と話をする機会があれば、自分が考える、働くことへの想いを語ってみてはいかがでしょうか。

「かっこいい先輩(上司)」が身近にいることは、新たな「働く動機」を築くことにもつながります。あこがれる先輩(上司を)通じて、入社前の「志望動機」を、現実とすり合わせた「働く動機」に再構築していくのです。現実と折り合える「働く動機」が得られないと、入社数ヶ月で「自分のやりたいこととは違った」と言って、辞めてしまう場合もあります。先輩(上司)を通じて、新たな動機を再構築するというステップは、配属されてからしかできない、とても重要なステップではないでしょうか。

コピーライター糸井重里さんの言葉に「魚を飼うということは、水を飼うということ」というものがあります。新人を成長させるには、人を中心とした周囲の環境が最も重要なのかもしれません。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。