2012年卒の採用活動が本格化してきました。来年からは、採用活動の繰り下げが予想されているので、現行スケジュールの活動は今年が最後となるでしょう。また、スケジュールが変わることで、選考方法も見直されるでしょうから、来年以降の数年が「新卒採用」の変わり目になると考えられます。
大きな変化の入り口にある今、学生はどんな企業に魅力を感じ、就職活動に臨んでいるのでしょうか。
- 掲載日:2011/02/14
第6回 今どき学生の企業選び
■大手企業にこだわる理由
2011年卒の有効求人倍率は、(前年より低下したとはいえ)1.28倍あります。中途採用メインの有効求人倍率が0.47倍(2009年度)であることを考えれば、まだ恵まれた就職環境とも言えます。そのため、「学生がより好みしすぎている」「今の『就職難』は、大手企業にこだわりすぎる学生自らが招いている」といった意見もあります。確かに、従業員規模300人未満に限定すれば、求人倍率は4.41倍までアップしますから(※1)、そういう一面もあるのでしょう。
しかし、学生本人が大手企業にこだわる気がなくても、なぜか大手企業ばかりに人気が集中してしまうのです。
そもそも、学生が大手企業に感じる魅力とは何なのでしょう。安定性とよく言われますが、そればかりではないと感じています。「大手企業だからといって、安定して働き続けられる保証はない」ということに、気づき始めている学生は増えているように思うのです。
私が、大手企業の魅力としてよく耳にするのは、「研修が充実しているので成長できそう」「福利厚生がしっかりしていて長く働けそう」「(地元に戻るなど)転職する必要が出たときに有利」といった意見です。つまり、規模自体が問題ではなく、自己の成長や仕事を続けられる環境を重視しているわけです。
また、就職が、学生本人だけの問題でなくなってきたことも、大手企業偏重の要因でしょう。ある有名私立大学に通う男子学生が言っていたコメントが象徴的です。「親孝行のために大手企業に入りたい」。別に、両親から強固に大手企業を勧められたわけではありません。「浪人までさせてもらって、やっと希望の大学に入れた。高い授業料も払ってくれている。せめて親孝行として、大手企業に入社したい」。親の大手志向が、学生の企業選びに影響を与えているとよく言われます。しかし、それほど強い大手志向がなくても、学生自らが、親の意向をくみ取ってしまうというもの、今の時代を表しているのかもしれません。
■中堅中小企業への注目
一方で、全ての学生が大手企業を重視しているわけではありません。それは、データからも読み取れます。就職希望の企業ランキングデータで、上位20位の企業得票が全体に占める割合を調べてみると、この3年間は低下し続けています(※2)。つまり、大手企業にばかり人気が集中するのではなく、分散化傾向になっているのです。
しかし、中堅中小企業に目をむけるといっても、社会人経験のない彼らからすれば、希望イメージに近い企業を見つけるのは至難の業です。「中小企業に目を向けたいけど、どうやって調べたらいいの」「有名でない優良企業を探すにはどうしたらいいの」。昨年ぐらいから、そんな学生相談を受けるようになりました。
大手企業が主催するセミナーやホームページでは、充実した情報がふんだんに提供されています。学生は、それを判断材料にエントリーを決めていきます。情報量で比べれば、中堅中小企業が見劣りするのはしかたがないでしょう。しかし、それでエントリーの判断をしている学生は、判断材料が乏しいためスルーしてしまうことが多いのです。
ブラック企業の存在も、大手企業偏重を助長します。「どんな情報を調べれば、ブラック企業か分かりますか」という質問を受けたことがあります。ブラック企業をテーマにした書籍やドラマがヒットしたことで、少し過剰反応している面もありますが、実社会に対する情報不足を自覚している学生は、可能な限り不安を排除したいのでしょう。それが、見えにくい中堅中小企業を避けてしまうことにつながります。
では、学生が魅力を感じる企業には、どんな特徴があるのでしょう。学生に聞いた意見をまとめてみました。
- 特定分野でシェアNo.1など、明確な強みがある
- 将来性ある(と学生が感じる)新しい事業展開がある
- 社員同士の仲が良く、風通しの良い社風が感じられる
- 海外展開など、今後の成長性が感じられる
- 勤務地が限定されている
最後の2つなどは、会社はグローバルで、自分はローカルのままがいい、といった都合の良い意見にも感じますが、それが今の彼らの本音なのでしょう。そうした学生も、就職活動を通して、徐々に現実を認識していきます。そして、実社会における自分の居場所を見つけるべく、奮闘していくのです。
※1/ワークス大卒求人倍率調査(2011年卒)より
※2/上位20位の得票全体に占める割合結果
2010年卒、21.0%
2011年卒、19.0%
2012年卒、18.1%
文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所
「就職ブランドランキング調査」より
バックナンバー
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- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
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- 第73回 新入社員の大切な仕事
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- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
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- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
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- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
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- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント