Vol.25 職位による業務習熟度の逆転現象

 働き方改革に取り組む企業が増える中、その実現の難しさに直面する人事担当者も出てきているのではないだろうか。長時間労働の是正と業務の生産性を高めるためには、社員一人一人が従来の業務の進め方を見直し、その改善に取り組まなければならず、これまでにも増して効率的に働くことが求められる時代となった。一方で、早帰りを強制するだけで、業務負荷がかえって増えた話や、もともとプレイング・マネージャーとして多忙を極めていた管理職にしわよせがきているという話はよく聞かれる。働き方改革とは、すなわち職場改革でもあり、職場を魅力あるところとするためには、上司の存在が重要となることは、これまでのNEOS通信(※Vol.15『職場の魅力を高めるために』参照)でも解説した通りだ。
 
 ところが、上司が職場を改善するための取り組みをしたくても、うまくいかないケースというのも存在する。先日、ある会社で調査を行った際、特定の所属で「残業削減の上司の努力・工夫」や「側面からの援助」などの項目が低い結果となり、仕事の負荷感を訴える者も多いことが示された。さらに分析をしていくと、意外なことに管理職で業務知識の不足を感じている実態が明らかとなり、一般社員から見た上司の全般的な知識・経験に対する評価も低い水準となっていた。要するに、上司と部下とで習熟度に逆転現象が生まれており、一般社員の方が業務に精通している者が多い職場であることがわかったのである。

 通常であれば、必要に応じて業務の割当てや支援・サポートなどのマネジメントをすると思うが、このケースの場合、部下の業務内容自体を把握できない可能性があり、上司としてどう部下に関与すべきか、悩んでいる状況が推察される。忙しく働く部下の姿を見て、サポートしたいという気持ちはあるものの、どのように手を差し伸べていいのかがわからないというのが、上司の本音ではないだろうか。また、このような状況下では、上司⇔部下間のコミュニケーションも不足しやすく、そうなると部下の不満や負担感は実態以上に高まってしまう恐れもある。当然ながら、上司に対する信頼も損なわれかねない。

 管理部門の一部やIT、金融などのサービス業では、専門性の高さ故、今回の例のように職位の高さがそのまま業務の習熟度に対応していない場合もある。しかし、だからといって上司が関与しなくてもいいという話ではなく、例えば職場の雰囲気づくりやメンバー間の情報共有の橋渡し役など、対部下ではなく、職場全体をどう改善していくかという視点に立った取り組みが必要となる。

 また、専門性の高い業務は、属人傾向が見られることも多く、特定の社員にしかわからないという状況を職場内に作り出しやすい。このような状況は、着服や品質偽装などの違反を生む一因でもあり、コンプライアンス遵守の観点からも、管理職にはより一層の留意が求められる。

 今回のケースは比較的珍しい事例だと思うが、意識調査を活用することで、その実態を明らかにすることができた好例と言える。働き方を改革するためには、まず職場の実情を客観的に捉える必要があり、それなくして真に実効性のある施策を打つことはできない。「事件は会議室で起きているのではない、現場で起きているんだ」という某ドラマの名言が聞こえてきそうだ。

(株)日本経営協会総合研究所 研究員   吉川 和宏

【経歴】
大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。産業カウンセラー。