Vol.22 ツルの一声

 「ツルの一声」と聞くと、皆さんはどのようなイメージを持たれるだろうか。会議などでの終わりの見えない議論に対し、上司が突然結論を下す場面を想像された方も多いのではないだろうか。三省堂大辞林には、「意見や利害が対立する多くの人を否応なしに従わせる権威者・権力者の一言」と書かれており、上位者による有無を言わせない一言で決断を下す様を表している。同族経営のオーナー企業などでよく見られそうな「ツルの一声」だが、当社で2016年から17年にコンプライアンス意識調査を実施した製造業7社約36,000名の結果(表1参照)を見ると、35.8%が「非常に/わりとある」と回答しており、やや多い水準となっている。7社はいずれも非オーナー系で、東証1部に上場している会社なのだが、この35.8%は当社の評価基準に当てはめると「問題」に該当しており、日常の業務場面で「ツルの一声」を感じる者は意外と多いことがわかる。そこで今回は、コンプライアンスの観点から見た課題点について考えてみたい。

その①:属人思考の高い企業風土

 「ツルの一声」が見られる組織では、内容の良し悪しよりも「誰の発言か」が重視される傾向が強く、属人思考の高さが指摘される。「社長が言ったことだから」など、発言者が誰かによって判断される傾向が強い場合、その内容を冷静に捉える姿勢・思考が失われる恐れがある。こうなると、正しい判断ができなくなるだけでなく、問題の発見の遅れにも繋がりかねないため、留意が必要となる。

その②:決定事項に対する納得感の低さ 

 「ツルの一声」によって意思決定された事項は、議論を経て導き出されたものではないため、社員の納得感が得られにくいことが多い。「なぜそうしなければならないのか」といった発言者の真意が伝わっていないことも背景にあると思われるが、現場にとって都合のいい解釈がなされる恐れもあり、本来の趣旨とは異なる行動にも繋がりかねない。また、発言した内容だけが独り歩きしてしまうと、社員からは「現場のことをわかっていない発言」と受け止められ、結果として上位者との間に心理的距離を生む原因にもなってしまう。

その③:ボトムアップ型コミュニケーションの機能不全

 問題があった際、報告や相談が上がるかどうかは、コンプライアンス違反を未然に防ぐ上で重要であることは言うまでもない。特に、トップダウンの強い組織においては、これらボトムアップ型のコミュニケーションが機能しているかどうかは、組織の健全性を見る際のポイントとなる。風通しのよい職場づくりを推進するはずの上位者自身が、その阻害要因となっていないか、今一度振り返ってみる必要がありそうだ。

 以上の3点を取り上げたが、勿論、組織における指揮命令系統は上意下達が基本であり、「ツルの一声」は経営陣などの上位者による強いリーダーシップの側面でもある。実際、経営理念や中期経営計画などの浸透では、プラスの効果が見られる会社もあり、必ずしもマイナスばかりとは限らない。昨今、不祥事のニュースで現場を知らない経営陣を取り上げたものをよく見る。長い首をもつツルには、高いところから発言できると同時に、遠くまで自社内を見渡さなければならない立場にあることを、改めて認識することを期待したい。

(表1)「ツルの一声の存在」 製造業7社約36,000名の回答割合

(表1)「ツルの一声の存在」 製造業7社約36,000名の回答割合

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(株)日本経営協会総合研究所 研究員   吉川 和宏

【経歴】
大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。産業カウンセラー。