従業員意識調査の結果は、事務局である人事部や経営企画部、役員だけで利用するものではない。社員に適切にフィードバックし、会社の取組みや職場の実態などに対する理解を高めた上で、改善につなげることが重要となる。フィードバックの方法にはいくつかあるが、例えば「社内報」やイントラへの掲載、管理職会議での結果の共有などが代表的なものとなる。これらは、結果を共有することが主な目的であり、社員の「理解を高め、改善につなげる」ためには、やや不十分とも言える。当社で支援するフィードバックの一つに、部門長を対象とした研修があり、今回はその内容についてご紹介したい。
職場を改善していく上で、部門長などの管理職の協力は不可欠であり、 従業員意識調査の分析でも、多くの企業で『職場の総合的魅力』と上司のマネジメントとの関係性の高さが示されている。(※NEOS通信Vol.15『職場の魅力を高めるために』参照)
(表1)は、当社で行う代表的なプログラムだが、この研修では単に結果を共有することだけでなく、今後の改善にどうつなげるかに重きが置かれる。そのため、冒頭の講話では、人事部や経営企画部の担当役員自ら話すことも珍しくなく、会社として本気で取り組む姿勢を改めて伝えた上で、出席者にはどのような役割を担ってほしいかを明確にさせることからスタートとなる。その後、まずは結果の概要について解説するのだが、ここで重要なことは、解説を行うのが、外部から派遣される、いわゆる研修講師ではなく、実際に調査を担当した研究員が行う点にある。研修講師の場合、結果の詳細や他社との違いなどについて把握していない可能性もあり、この場合、一般的な話に終始することも考えられる。出席者の関心を誘い、納得感と理解度を高めるためには、調査を担当した研究員が、その会社特有の傾向も踏まえて解説することが必要となる。
次に、それぞれが担当する部門の結果を用いたワークを行うのだが、これは個人ワークとグループワークの2つに分けられる。まず個人ワークでは、所定のフォーマットに沿って結果の整理を行った後、特に課題が示された項目について、どういった背景や要因が考えられるのかを、まずはご自身で考えてもらう。これまでおぼろげながら課題と感じていたものが、客観的な数値を用いることで、その輪郭と原因について、明確にしていく作業と言える。その後、担当する業務内容が比較的近いメンバーで構成されたグループに分かれ、それぞれが作成した内容について、第三者の立場からアドバイスをもらい、より内容の濃いものへと、修正を加えていく。こうして作成されたものを基に、「行動計画書」を作成するのだが、ここで注意すべきは、より具体的な行動を明記するという点である。宣言することがゴールではなく、日々の行動に落とし込む必要があるため、「コミュニケーションを意識的に取る」の様な漠然としたものではなく、「定期的に会議を開き、業務での困り事について、メンバー内で共有を図り、改善策について議論する」など、より具体的に計画を立てることが求められる。こうすることで、どのような変化が職場に生まれたのかを肌感覚で実感することができ、その後の効果測定もしやすくなる。
今回ご紹介したフィードバックだけでなく、結果を中計や人材育成などの施策とリンクさせることで、調査を単なるイベント(点)ではなく、会社が目指すべき姿に近づくためのPDCAサイクル(線)の一役にしていただければと思う。
- 掲載日:2018/01/09
Vol.20 調査結果のフィードバック
(表1)
研修プログラム(※4時間程度) |
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1.講話 ■従業員意識調査の実施および研修の目的 2.従業員意識調査の概要と結果の見方・データ分析方法 ■今年度の意識調査の概要解説 ■データの見方等について 3.データ分析【個人ワーク】(1時間~1時間半程度) ■各部署のモラール結果を基に分析(課題分析表の作成) 4.データ分析【グループワーク】(1時間半程度) ■部署の結果や課題分析表の共有 5.(人事部より)今後の進め方 ■職場メンバーへの実態ヒアリング実施のお願い ■「行動計画書」作成のお願いと提出について |
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(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏
【経歴】
大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。産業カウンセラー。