長時間労働の見直しや柔軟な働き方の推奨など、働き方改革への対応に追われる担当者の話をよく聞く。首相官邸が取りまとめた「働き方改革実現会議」では、「働く人の視点に立って、労働制度の抜本改革を行い、企業文化や風土を変えようとするものである」としており、経営側の視点ではなく、従業員に重きが置かれた点で従来と大きく異なるものといえる。そこで、今回は長時間労働の見直しに関連したテーマの一つである「残業」をキーワードに、働き方改革について考えてみたい。
経済的理由を除けば、残業を進んでする者はいないと思うが、残業をしなければならない理由について、念のため確認をしておく。従業員意識調査『NEOS』の項目の一つである「残業削減の障害」を見ると、以下の2つが上位に挙げられ、業務量の多さがその主な要因であることがわかる。
(1)やらなければならない仕事の量が多過ぎる
(2)本来はやらなくてもよい仕事が多過ぎる
「本来はやらなくてもよい仕事」を減らし、「やらなければならない仕事」に注力するためには、既存業務の見直しと個々の生産性を高める必要があり、時間外労働の上限を設ける企業が増えているが、限られた時間内で業務を効率よく遂行できる人材に変化させていかなければならない。そのためには、従業員一人一人の「意識改革」を行うと同時に、上司が率先して行動で示し、部下の行動変容につなげることが求められる。
また、多量の業務をこなすためには、メンバーの協力を仰がなければならないときもあり、「個」ではなく「チーム力」の醸成を意識した上司の関わり合いや職場づくりが、これまで以上に重要となる。一部のハイパフォーマーに偏っていた業務やノウハウなどの属人的な部分を、他のメンバーに分散・共有させる副次効果が、働き方改革にはあるのではないだろうか。
ちなみに、2013年から2016年に当社で実施した製造業8社(約27,000名)のデータ(表1)を見ると、「残業削減の上司の努力・工夫」が「なされている」と回答する割合は一般社員の約4割に止まっており、依然約2割は努力・工夫が「なされていない」と感じている結果となった。冒頭にご紹介した「企業文化や風土を変える」ためには、上司の参画が必要不可欠であり、必要に応じた支援やフォローなど、主体的な取組みを期待したい。
- 掲載日:2017/12/13
Vol.19 働き方改革と残業削減
(表1)「残業削減の上司の努力・工夫(※5択式)」 職位別回答割合

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(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏
【経歴】
大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。産業カウンセラー。