『同質性の高い職場』と聞くと、皆さんはどのようなイメージをもたれるだろうか。同じ様な考え方や価値観をもった社員が多く、一体感の醸成が進んだ職場を想像された方も多いと思う。新卒一括採用が一般的な日本企業では、まだまだプロパー社員が社内の大半を占めることもあり、このような会社では似通ったタイプの社員で職場が構成されるケースも珍しくない。採用時には性格や行動特性の異なる学生を選んでいても、5年、10年と時間が経つにつれ、その特性が薄れてしまったという話はよく聞かれるものである。そこで、今回は『職場内の同質性』を取り上げ、そのメリットとデメリットについて考えてみたい。
まずメリットについてだが、同質性が高い職場では、コミュニケーションが図られやすい環境もあり、メンバー間の関係が良好で、一体感も高まりやすい点が挙げられる。当然、マネジメントの統率もとりやすくなり、上司に対する支持や信頼感も高くなる。また、このような職場では、『上司の魅力』や「仲間同士のチームワーク」など、意識調査の多くの項目で非常に良好な結果が示される。
一方、デメリットとしては、異分子に対する受容性が低い点が挙げられる。例えば、異なる考えや意見をもつ社員がいたとしても、発言・行動を控えてしまうことが想定される。このような場合、仮に何か新しい取組みをしようにも、積極的に挑戦しようとする者は限られた少数派のみとなってしまい、社内のプロジェクトの顔触れを見ると、いつも同じメンバーという現象に陥る。周囲との同調や上司の顔色を気にする者が多い職場では、いくら経営陣がチャレンジや変革を促したとしても、それを浸透させることは困難と言える。また、トラブルや業務上の問題に気づいたとしても、職場の雰囲気や人間関係を損ないたくないが故に、上司に報告しづらくなり、結果として発見の遅れに繋がるケースも考えられる。この場合、コンプライアンスの観点から見ても、隠ぺいなどの組織的不正の要因にもなりかねず、注意が必要となる。
昨今、『多様性、多面性』を受け入れる組織づくりへの関心が高まっているが、まだまだ女性社員やシニアの活用、外国人登用など、属性の違いにフォーカスした取組みが多いように思われる。当社で行った『ダイバーシティを推進する組織風土づくり』セミナーのアンケートでも、「女性」がダイバーシティの重点取組み項目のトップに挙げられ、次いで「本人の抱える事情」や「シニア層」などとなっている。もちろん、これらの取組みも重要ではあるが、同質性が高い企業においては、属性の違いではなく、社員一人一人の「考え方」の多様性をどう高めていくかについても、真剣に考えていく必要があるのではないか。
余談となるが、当社意識調査には『遠慮なく言い合う』という項目があるが、実はこの質問は『職場の活力』ではなく、チームワーク等を聞いた『職場の親密度』を測定する分野に含まれている。これは、単に表面上の仲良しクラブではなく、互いの意見が遠慮なく言い合える関係が築けてこそ、真に『職場の親密度』が高い状況であることを意味している。
- 掲載日:2017/09/07
Vol.16 職場内の同質性と多様性
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(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏
【経歴】
大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。産業カウンセラー。