現場で働く社員のストレス管理は、近年特に重要なテーマの一つと言える。2015年12月より従業員数50名以上の企業に義務化された『ストレスチェック』や昨今の働き方改革等、関連するニュースを耳にする機会も多いのではないだろうか。
従業員意識調査『NEOS』では、ストレス状態を4項目で測定しており、項目によって状態の程度がわかる設定となっている。(※表1参照)これらストレスの原因となるものはいくつかあるかと思うが、「業務知識の不足感」がストレスに影響を及ぼすことが過去の分析から明らかとなっている。人材育成に関連した項目の一つである「業務知識」は、若年層を中心にスコアが低い傾向を示すことが多く、これは経験不足や習熟度に応じた業務の割当ができていないことが主な要因と考えられる。このような状態が続くことで、業務遂行に支障をきたし、結果としてストレスに繋がるというものである。
このような状態を未然に防ぐためには、上司が部下の業務習熟度に応じた仕事の割当を行うのはもちろんのこと、OJTなど職場内の育成環境を整備することがポイントとなる。研修などのOff-JTでは、コミュニケーションやセルフマネジメントなどのスキルは学べるが、これらは職場で実践して初めて習得することができる。「人が育つ職場をいかにして創り上げていくか」を追及することが、メンバーのストレス状態の改善に寄与することがわかった今回の結果は、管理職にとっても興味のあるものではないだろうか。
従業員意識調査は無記名式のため、『ストレスチェック』の様な個人を対象としたものとは活用する場面が異なるが、会社や職場という視点から改善に取り組むためのヒントを与えてくれるものであることは間違いなさそうである。
- 掲載日:2017/03/02
Vol.10 ストレスと業務知識の不足感の意外な関係
(表1)『ストレス状態』に関する4項目
項目 | 程度 |
---|---|
プレッシャーに疲れる | 軽度 |
イライラする | ↕ |
気持ちが集中できない | |
理由もなくゆううつになる | 重度 |
(表2)「業務知識の不足感」と相関の高い上位項目
製造業A社(従業員約3,000名)分析結果より
項目 | 分野 | 相関係数 |
---|---|---|
仕事の適性 | 仕事の魅力 | .324** |
気持ちが集中できない | ストレス状態 | .309** |
理由もなくゆううつになる | ストレス状態 | .251** |
プレッシャーに疲れる | ストレス状態 | .249** |
イライラする | ストレス状態 | .222** |
顧客の満足感 | 従業員の顧客志向 | .216** |
能力の発揮 | 仕事の魅力 | .207** |
二重の指示・命令 | 職場内コミュニケーション | .197** |
自主的な判断の余地 | 仕事の魅力 | .184** |
会社における自分自身の将来 | 会社の魅了 | .160** |
バックナンバー
- Vol.35 頭では理解していても実践できない訳
- Vol.34 組織の不正を防ぐために
- Vol.33 本音と建前
- Vol.32 社員の定着と経営資源としての「ヒト」
- Vol.31 客観的評価の必要性
- Vol.30 曖昧なものを曖昧なままにしないために
- Vol.29 グループ経営とコンプライアンス
- Vol.28 コンプライアンスの取り組みに足りない「何か」
- Vol.27 働き方改革=職場の「生産性改革」+「風土改革」
- Vol.26 昇進・昇格の公平感
- Vol.25 職位による業務習熟度の逆転現象
- Vol.24 組織における上司の影響力
- Vol.23 上場企業における『不祥事予防のプリンシプル』
- Vol.22 ツルの一声
- Vol.21 コンプライアンスと顧客志向
- Vol.20 調査結果のフィードバック
- Vol.19 働き方改革と残業削減
- Vol.18 中間職の負荷
- Vol.17 人材育成と管理職の理解
- Vol.16 職場内の同質性と多様性
- Vol.15 職場の魅力を高めるために
- Vol.14 会社の魅力を高めるために
- Vol.13 職場の活力と親密度
- Vol.12 遠慮なく言い合う
- Vol.11 所属によるコンプライアンス意識の違い
- Vol.10 ストレスと業務知識の不足感の意外な関係
- Vol.9 製造業と非製造業
- Vol.8 自社調査で陥りがちな罠
- Vol.7 ハラスメントの実態と内部通報制度
- Vol.6 リーダーシップのPM理論
- Vol.5 経営施策の浸透
- Vol.4 企業風土の醸成に向けて
- Vol.3 企業風土
- Vol.2 従業員のストレスに影響を及ぼす職場要因
- Vol.1 若手社員の離職を防ぐために
バックナンバーを全て表示
(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏
【経歴】
大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。産業カウンセラー。