従業員意識調査『NEOS』は、モラールサーベイの第一人者である(故)関本昌秀氏(慶應義塾大学名誉教授)が提唱された「Good People Company」のコンセプトのもと開発され、これまでに延べ500社(※2016年4月現在)を超える導入実績がある。その内訳は製造業が約65%と多いが、今回は製造業と非製造業で分析結果にどのような違いがあるのか、2社の分析結果を用いて検証する。
下の(表1)は、製造業A社(約700名)と非製造業B社(約700名)について、分析の結果を示したものである。分析では、相関分析という手法を用い、「経営方針のブレイクダウン」と相関の高い上位10項目を抽出した。製造業A社では、上司に関する項目が大半を占めた一方、非製造業では、「目標達成への関心度」や「職場内の役割認識」等、『職場の活力』に該当するものが多く挙げられ、製造業とは異なる傾向が示された。
製造業では、トップからの指示命令系統が整備された「ピラミッド型組織」が多く、そのようなタテの意識が強い組織においては、管理職(上司)の果たす役割が経営施策の浸透に大きく影響することが改めて確認された。今回の分析以外でも、所属別にスコアの高群と低群に分け、その違いを分析した際、製造業では上司のマネジメントに関する項目が上がることが少なくない。当然といえばそれまでなのだが、日常業務における上司の行動や姿勢が職場(組織)をつくる上で重要であることの証左と言えるのではないか。
一方、非製造業(「フラット型組織」)では、製造業に比べ管理職の数も少なく、現場の社員一人一人が高い意識をもって業務に取り組むことが、施策の浸透と関わりが強いことが窺える。
今回の分析は、組織の形態の違いによって調査結果をどのように活用していくべきかを考えるヒントになるのではないか。
- 掲載日:2018/02/02
Vol.9 製造業と非製造業
(表1)
【製造業 A社】 「経営方針のブレイクダウン」と相関の高い上位10項目 |
||
項目 | 分野 | 相関係数 |
---|---|---|
意思決定のタイミング | 上司の管理能力 | .413** |
適切な企画・立案 | 上司の管理能力 | .405** |
明確な仕事の指示 | 上司の管理能力 | .397** |
合理的な仕事の割当 | 上司の管理能力 | .391** |
会社全体・部門の方針の伝達 | 上司の関係構築機能 | .382** |
仕事の良し悪しの明確な評価 | 上司の課題遂行機能 | .358** |
フォローアップ | 上司の管理能力 | .355** |
本社(本部)の一方的押付け | 本社(本部)と現場の関係 | .345** |
目標・課題の納得性 | 上司の関係構築機能 | .336** |
残業削減の上司の努力・工夫 | 仕事の負荷感 | .317** |
【非製造業 B社】 「経営方針のブレイクダウン」と相関の高い上位10項目 |
||
項目 | 分野 | 相関係数 |
---|---|---|
能力の計画的育成 | 人材育成 | .375** |
目標達成への関心度 | 職場の活力 | .362** |
上司の危機意識 | 上司の課題遂行機能 | .360** |
同僚の危機意識 | 職場の活力 | .352** |
職場内の役割認識 | 職場の活力 | .348** |
職場の総合的魅力 | 職場の総合的魅力 | .344** |
知識・技能を向上する雰囲気 | 職場の活力 | .342** |
会社全体の方針の伝達 | 上司の関係構築機能 | .340** |
期待以上に頑張る | 職場の活力 | .335** |
職場内教育(OJT) | 上司の関係構築機能 | .333** |
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(株)日本経営協会総合研究所 研究員 吉川 和宏
【経歴】
大学卒業後、金融機関勤務を経て、(株)日本経営協会総合研究所入社。現在は、主に従業員意識調査およびコンプライアンス意識調査を担当。調査から得られる数値情報を基に、各企業の組織改善のための指導・支援を行っている。産業カウンセラー。