第4回で示したとおり、誰しもダイバーシティの当事者になり得る。子育てや介護、あるいは自分自身の病気などで会社や職場のサポートを受けることがあるかもしれない。海外赴任をすれば、自分を受け入れるために周囲の人たちがさまざまなサポートをしてくれるだろう。
つまり、私たちが働く上で、サポートを受ける側になることもあれば、サポートをする側になることもある。
しかし、自分がいつかサポートを受ける可能性があるにも関わらず、サポートをする側が、サポートを受けている人に対し、「不公平感」や「不満」がたまっているのも事実である。
具体例としては、
●産休育休中の従業員の代替要員の補充がなく、残りのメンバーで業務をカバーし、業務負荷が増えている。
●業務内容や業績は同じ程度なのに、年齢層が高いだけで、給料が倍近く開いている。
●「子どもの急な病気」で頻繁に休暇を取る。そのフォローや出張は独身者に回ってくる。
●「親の介護」が大変なのは理解できるが、いつまで仕事をセーブするのだろうか。
「お互いさま」の気持ちで、みんなでサポートしようと思っているはずなのに、一方で、サポートを受ける人に対して「不公平感」や「不満」を溜めたり、「嫌味を言う」「嫌がらせ」をしてしまう人がいるのはなぜだろうか。
その理由として、サポートをする側の気持ちの「ソフト面」と、職場環境などの「ハード面」との両面で整理してみよう(表1)。
- 掲載日:2018/06/11
第5回 なぜ他者に対して寛容でいられないのか

今回は、サポートを受ける人に対して「不公平感」を感じる理由として、サポートする側の気持ちのメカニズムを考えてみよう。
私たちには、「自尊感情」がある。「自尊感情」とは、この自分を好きという感情、自分を大切に思う感情、自分の存在を肯定する感情である。私たちは、「自尊感情」が傷つけられる危機が発生したとき、他者を攻撃することにより「自尊感情」を保持しようするメカニズムがある。
「コントロール感」とは、自分であることを制御できていると思える感覚を指す。「自尊感情」と「コントロール感」「他者への対応」は密接な関係にある(表2)。
- 「自尊感情」が高いと、「コントロール感」が高く、他者に対して思いやりが持てる。
- 「自尊感情」が低いと、「コントロール感」が低く、他者へ不満をぶつけたり、嫌がらせに発展することがある。

「仕事が忙しすぎて心身ともに休めない」「次から次へと仕事が回ってきて、何をしているのか分からない」などの状況では、私たちの自尊感情は低い。そんなとき、サポートを受けている人に対して不公平感を感じたり、嫌味のひとつも言いたくなる気持ちになることが推定される。
では、 「自尊感情」を高めるためにはどうしたらよいだろうか。
- 自分の強みも弱みも認めたうえで、自分の強みを生かす。
- 他者に関心を持つ。他者の人となりを受け入れる。
- 他者からの評価・アドバイスを素直に受け取って、自分の強みに気づく。
これらは、まさに「自己受容と他者受容」である。
次回は、「自己受容と他者受容」を紹介する予定です。
【第5回のまとめ】
●私たちが働く上で、誰しもダイバーシティの当事者になり得る。サポートを受ける側になることもあれば、サポートをする側になることもある。
●「自尊感情」が低いとき、「コントロール感」を失い、他者に不満をぶつけたり、嫌がらせに発展することがある。「自尊感情」を高めるためには、「自己受容と他者受容」が必要である。

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子
奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。