第1回 従業員満足度の向上は業績アップにつながるのか? ~企業業績と従業員モラールの関係~

■従業員意識調査(モラールサーベイ)とは

『CS(Customer Satisfaction:顧客満足)の向上はES(Employee Satisfaction:従業員満足)の向上から』との言説にあるように、従業員の意識や満足度、いわば従業員モラールを測定する従業員意識調査に多くの関心が寄せられている。従業員意識調査を用い組織で働く従業員の皆さんが、会社や現場、また、 自らの行う仕事などについて、どのように感じながら働いているのか、その率直な『気持ち』の状態を定量化することによって、定性的で具体的な目標やプランが立てにくいとされるモラールを測定し、組織活性指標として活用することが出来る。第1回コラムでは、人と組織の関係性についてモラールを通じた考察を試みる。

■モラールと業績は連動するもの?

お客様の会社に訪問し、従業員意識調査のプレゼンテーションを行う際に、「モラールが高まると、業績も良くなるのですか?」という質問を受けることが多い。もちろん、感覚的に「関係性はあると思います」という仮説で回答することは容易である。しかし仮説である以上、この質問に対する正確な回答としては、「従業員意識調査の分析結果に基づいて、会社として取り組むべき課題、職場として取り組むべき課題を明らかにし て、職場の総合的魅力、会社の総合的魅力を高める施策を実施することにより、『業績を上げる』ことは可能です」とお答えすべきだろう。そこで以下では、「モラールが高まると、業績も良くなるのか」という多くの方々の疑問を明らかにすべく、仮説検証の見地から企業業績と従業員モラールの関係性についての科学的なアプローチを供覧する。

・分析の概要

企業業績と従業員モラールの関係性を明らかにするために、当社従業員意識調査(調査名称:NEOS)実施企業※1の財務データ(有価証券報告書)から労働生産性を試算し、モラール状況との相関関係を析出した。

・労働生産性と従業員満足度の関係

まず、労働生産性と従業員満足度の間に有意な関係性があるのか、を析出するために相関分析を行い、その結果を右図で示す。

この分析では、従業員満足度を、『会社の総合的魅力』から測定している。この『会社の総合的魅力』という指標は、当社従業員意識調査(NEOS)の中で測定される項目で、具体的には『総合的に見て、今の会社はあなたにとって魅力のある会社ですか』とする設問であり、いわば、会社に対 する総合的な満足度を測定する指標である。

図で示されている数値は相関分析により析出される相関係数の値である。相関係数とは、2変量(2つの集団を構成する人や物の特性を表す量)の 関係(関わり合い)の強さを「-1」から「+1」までの数値で表現したもので、その絶対値が、1に近いほど2変量の関係が強く、0に近いほど2変量 の関係は弱いことを示す。

今回分析した労働生産性と従業員満足度の相関係数は0.469(有意確率※2 p<0.01)であった。(これら2変数間は、単純な一対一の関係性ではなく、 諸々の社会的影響が考えられる中での関係性であることを鑑みると、高い相関関係にあると言える。)
以上の結果から、労働生産性と従業員満足度には、統計的に有意な相関関係があることが見出された。すなわち、『労働生産性の高い(低い) 会社は、従業員満足度が高い(低い)』という関係が、分析的に証明されたことになる。

・労働生産性が高い企業の経営管理の特徴

次に、労働生産性の高い企業に見られる経営管理の特徴を明らかにする。先ほどの労働生産性と従業員満足度との相関分析と同様の方法で、労働生産性と当社従業員意識調査(NEOS)のモラール項目の相関係数の分析結果から、下図のような結果が見出された。

まず、労働生産性が高い企業の特徴としては、会社全体を通じて、(1)経営方針の理解と共有を促していること、(2)職場内教育(OJT)を実施して いること、の2項目のスコアがともに良好であることが挙げられる。(1)については、経営方針を打ち出すだけでなく、その方針がラインを通じて 各職場にきちんと理解され共有されることが、目標の明確化につながり、良い影響を与えると考察できます。また、(2)については、組織は人材によ って構成されており、その人材の育成こそが従業員の能力向上に繋がり、企業の好業績をもたらす、と考察できる。

次に、管理職層の特徴としては、(3)ストレス状態が良いこと、(4)本社の支社支援や本社と支社のコミュニケーションが良いこと、が挙げられる 。(3)については、組織のキーマンである管理職は責任も重く、ストレス状態を良好に保つこと(ストレスマネジメント)が、ひいては上司にも部下にも良い影響を与えることがポイントとなっていると思われる。また、(4)については、管理職は、所属部門のみならず他部門とのコミュニケーシ ョンも求められるようになってくる。特に前述の管理職のストレスの大きな原因としても、多くの会社で他部門とのコミュニケーションが挙げられることから考えても、部門間のコミュニケーションを円滑にすることの重要性がうかがえる。

最後に、一般社員層の特徴としては、(5)転職志向が低い傾向にあること、(6)経営方針のブレイクダウンがなされていること、(7)遠慮なく言い合う職場となっていること、が挙げられた。(5)については、特に若年層社員に対するリテンション・マネジメントの重要性がうかがえる結果である 。(6)については、(1)で挙げられた方針の理解と共有を促す意味でも、経営方針をわかりやすく一般社員へブレイクダウンすることの重要性が認識 できる。また、(7)については、建設的な意見を引き出す意味でも、コミュニケーションのとりやすい、職場環境の整備が重要であることが理解できる。

■最後に

これまで、企業業績と従業員モラールについて、分析結果を基に考察を重ねてきたが、やはりモラールの高い職場・組織は、業績も高い、と いうことが、感覚的ではなく分析的にも明らかになった。モラールを高めるために、そのひとつのツールとして従業員意識調査は重要な役割を担うが、最も大事なことは、調査から得られた科学的・ 分析的情報を、いかにリアルに、いかにわかりやすく全社員で共有し、現場感覚を踏まえたアクションが起こせるか、感覚的にも、分析的にも、どちらにも偏らない、バランスの取れたアクションこそが、モラール向上に欠かせないと言える。

※1:2002年から2007年に当社従業員意識調査を実施した企業のうち、1部上場の製造業企業
※2:有意確率p<0.01は、1%水準での有意確率であることを示す。すなわち、これら2変数間の関係性が偶然で起こる確率が1%未満であることを示す。

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 加藤 理
(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 加藤 理

慶応義塾大学経済学部卒、慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程修了(産業・組織心理学専攻)後、2002年に入社。現在、組織行動部門主席研究員として、多変量解析を用いた意識調査結果の分析や“現場”に赴いてのフィールドワークから、現場の接点と経営の視点のマッチング=人と組織のパフォーマンス最適化に向けた指導・支援を行なっている。