第8回 不祥事発生の要因を考える ~不正のトライアングル~

企業が不正行為(コンプライアンス違反)を犯せば、社会的批判を受け、刑事・民事上の法的責任を負ったり、あるいは業績の悪化や、株価の暴落により倒産に追い込まれるおそれがある。それにもかかわらず、企業不祥事は一向になくなる気配がない。なぜ、企業や企業に所属する従業員は、不正行為を行うのであろうか。

 人が不正行為を実行するに至る仕組みについては、米国の犯罪学者であるD.R.クレッシーが実際の犯罪者を調査して導き出した「不正のトライアングル」理論が、広く知られている。
 「不正のトライアングル」理論では、不正行為は、(1)機会、(2)動機、(3)正当化という3つの不正リスク(「不正リスクの3要素」)がすべてそろった時に発生すると考えられている。

(1)機会
 「機会」とは、不正を犯す機会、職場環境があることを指す。例えば、請求業務と入金業務を同一人物が担当という環境はこれにあたる。

(2)動機
 「動機」とは、不正行為を実行するしかないと考えるに至った事情である。例えば、横領する動機としての、「借金返済に追われている」など事情がこれにあたる。「誰にも相談できないこと」に端を発するケースが多いのが現状である。

(3)正当化
 「正当化」とは、不正行為に自ら納得させる理由付けのことであり、たとえば「短時間だから」「仕方がない」など自分に都合の良い理由をこじつけることである。

 各企業の不正行為対策としては、まず(1)の「機会」を発生させないよう、内部統制やコンピューターによる制御が行われているが、コストがかかるばかりか、昨今は管理に次ぐ管理で、際限がない状況である。また、管理志向の行き過ぎは、従業員の会社への信頼感を損なう恐れがある。(2)の「動機」や(3)「正当化」は、「困っていることを職場で相談」することにより他の解決策を見出し、不正行為を未然に防止することが可能である。すなわち、組織の健全化と個人の自律による組織風土の改善こそが、最良かつ最速の解決法である。

 次回は、「荒れた職場を放置すると・・・『割れ窓現象』のメカニズム」を紹介する予定です。

【第8回のまとめ】

・人が不正行為を実行するに至る仕組みについては、クレッシーの「不正のトライアングル」理論が広く知られている
・「不正のトライアングル」理論では、不正行為は、「機会」「動機」「正当化」という3つがすべてそろった時に発生すると考えられている
・「困っていることを職場で相談」することにより「動機」「正当化」を解消させる、組織の健全化と個人の自律による組織風土の改善こそが、最良かつ最速の解決法である

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子
(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認内部監査人(CIA)。公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。