コンプライアンス違反の再発防止のために、まず考えるべきは、「なぜ(コンプライアンス違反が)発生してしまったか」である。つまり、「なぜ、行為者はそのような行動を取ったのか、その原因は何であるか」である。しかし、現実には、「(行為者が)大らかな性格だから、ミスに気がつかなかった」「(行為者が)人に厳しく批判的な態度だから、暴力をふるった」など、行為者の独自な傾性から行動を推測し、問題を終結してしまうことが多い。
本来ならば、行為者の行動の原因、つまり、「ミスに気がつかない原因」や「暴力をふるった原因」は行為者の性格や態度以外に主因があるはずである。この行動の原因を究明しなければ、再発は免れないし、「犯人探しを徹底するような雰囲気」のなかでは、行為者がますます名乗り出なくなる恐れが考えられる。これが、一般的に「犯人探しより原因探し」と言われるものである。
- 掲載日:2012/01/17
第7回 犯人探しより原因探しを
人は、一般に自分を損ないたくないと思う傾向が強く、利得より損失に敏感である。自分が損なわれる状況におかれると、早く自分とは無関係であることを解明して、すっきりしたがる傾向がある。
社会的に望まれない行動がなされるときは、行為者の独自な傾性を推測する手がかりとなる。傾性は安定的で持続されやすく、印象が持続しやすい。身近なところで例をあげると、テレビで見る犯罪容疑者の顔写真は犯罪者らしく見え、容疑者の性格や生活態度のナレーションを聞き、「やっぱり」と合点してしまうことが多くないだろうか。
コンプライアンス違反の再発防止のためには、「なぜ(コンプライアンス違反が)発生したか、その原因は何か」を追及すべきである。その際、「誰が行為者であるか」や「行為者の性格や態度」で早合点することなく、「次に同じようなことが起きないようにするために」「これからどう対応するか」を考えることが重要である。
次回は、「不祥事発生の要因を考える~不正のトライアングル~」を紹介する予定です。
【第7回のまとめ】
●コンプライアンス違反の再発防止のために、まず考えるべきは、「なぜ(コンプライアンス違反が)発生してしまったか」である
●社会的に望まれない行動がなされるときは、行為者の独自な傾性を推測しがちである
●「次に同じようなことが起きないようにするために」「これからどう対応するか」を考えることが重要である
バックナンバー
- 第15回 コンプライアンス不適切行動群に見られる不満足要因(2)
- 第14回 コンプライアンス不適切行動群に見られる不満足要因(1)
- 第13回 ルールを厳しいと感じる人ほど、ルールを遵守する
- 第12回 コンプライアンスとメンタルヘルスの関係
- 第11回 セクシュアルハラスメントの原因を考える
- 第10回 パワー・ハラスメントの原因を考える
- 第9回 荒れた職場を放置すると・・・『割れ窓現象』のメカニズム
- 第8回 不祥事発生の要因を考える ~不正のトライアングル~
- 第7回 犯人探しより原因探しを
- 第6回 ルール重視、マニュアル重視の落とし穴
-
第5回 「なぜ人は、集団の中で同調しやすいのか」
~集団での意思決定の際に陥りやすいワナ~ - 第4回 『当たり前のことを当たり前に』の落とし穴
- 第3回 個人的不正を誘発する命令系統の不備
- 第2回 組織的不正を誘発する組織風土
- 第1回 不正の抑止は組織風土から
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(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子
奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査、ダイバーシティ意識調査、パワハラ実態調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。