第5回 「なぜ人は、集団の中で同調しやすいのか」
~集団での意思決定の際に陥りやすいワナ~

コンプライアンスは、日々の会社・職場の意思決定そのものである。言い替えれば、日々の会社・職場で誤った意思決定が行われたために、企業不祥事は発生するのである。ひとりひとりの意思決定では、正しい判断ができているのに、なぜ人は、集団の中では間違った意思決定を行ってしまうのか、集団での意思決定の際に陥りやすいワナとして、3つの心理学の理論を紹介する。

 1つめは、アッシュのサクラ実験で有名な『集団圧力』である。個人としては正しい判断ができていたはずが、多数派の力に負けて自分の考えを変えてしまうことである。これを回避するには、自分以外に誰かひとりでも正しい判断をする=孤立無援を避けることがポイントである。

 2つめは、『集団浅慮』である。集団で考えるとかえって深く考えずに決定がなされてしまう事象をI.L.ジャニスは、group think、集団浅慮と名付けた。これには、「集団の過剰評価」「閉鎖的な発想法」「画一性の圧力」の3つの要因が考えられている。集団浅慮が始まり出すと、以下の症状が見られるようになる。

(1)過度の楽観主義のあまりリスクに鈍感になる
(2)悪い結果が出ても事後的に合理化・正当化しようとする
(3)集団の価値基準・道徳観・倫理観を過信する
(4)ライバル勢力の動向を過小評価する
(5)多数意見に同調する圧力が働く
(6)反対者の見解に対して検閲的な態度をとろうとする
(7)集団は常に全員一致であるという幻想が形成される
(8)マイナス情報はあらかじめフィルタリングしてしまおうとする

 貴社の集団での意思決定では、このような症状が現れていないだろうか。『集団浅慮』を回避するためには、誤りを明確に声に出し、異なる意見が受け入れられる風土づくりが重要である。

 3つめは、『リスキー・シフト』である。集団討議による意思決定は、一人での意思決定に比べて、常により冒険的な性格を帯び、危険な決定になる傾向があると、ストーナーは『リスキー・シフト』と名付けた。その要因は、誰も集団決定について個人的に責任を負わなくてもよい状況や、冒険的な選択をする人は、社会的状況ではリーダー的要素を備えていることが多いなどが考えられている。リーダーの職にある方はこの点を自重する必要がある。

 以上のとおり、コンプライアンスは、組織(集団)での意思決定の積み重ねであるが、集団の意思決定の際、人はついつい同調してしまったり、責任感が薄まって適当な返事をしてしまうことがあるなど、『人間の弱さ』があることを知っておく必要がある。この『人間の弱さ』に対して、どのように向き合うべきだろうか。規程やマニュアルを整備し、人を管理すべきなのか。次回は、「ルール重視、マニュアル重視の落とし穴」について紹介する予定です。

【第5回のまとめ】

●集団での意思決定の際に陥りやすいワナとして、多くの理論が示されている。
●集団での意思決定の際、人は同調してしまったり、適当な返事をしてしまうなど、『人間の弱さ』が出てしまうことがある。
●『人間の弱さ』を受容しつつ、誤りを明確に声に出し、異なる意見が受け入れられる風土づくりが重要である。

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子
(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認内部監査人(CIA)。公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。