第4回 『当たり前のことを当たり前に』の落とし穴

コンプライアンスを社内で展開するにあたって、各社のコンプライアンス担当者からは、「なぜ『当たり前のことを当たり前に』できないのか」ということを度々お聞きする。ここでは、『当たり前のこと』とは何なのか、発信側(経営陣やコンプライアンス担当部門、管理職層)と従業員側の認識のギャップに着目して、3つの落とし穴を考えてみる。

 1つめの落とし穴は、『当たり前のこと』は知っていて、実践している(つもり)のケース
 2つめの落とし穴は、『当たり前のこと』は知っているが、誰かがやってくれると思うケース
 3つめの落とし穴は、『当たり前のこと』の意味するところが不足もしくは不一致のケース

 1つめの落とし穴は、上層部・管理職層に多いケースである。コンプライアンス意識調査では、自ら「意識は高い」「実践できている」との回答が集中する。これは、管理職としての「望ましさ」が影響しているものと思われる。しかし、一般社員層の「あなたの上司は~」の回答を見ると、理想と現実のギャップが確認できる。部下から見た評価を確認し、ギャップが大きい項目から実践するのが、実効的な方法である。

 2つめの落とし穴は、管理職層・一般社員層に多いケースである。コンプライアンスを実践しなくてはと分かっているものの、面倒くさい、やらなくても問題ない、誰かがやってくれるかも、という心理が働いている。「社会的手抜き」や「フリーライダー現象」と言われるものである。日頃の業務量が多いうえに、コンプライアンス実践の指示命令により、「やらされ感」が増えている。対応方法としては、コンプライアンスを自分たちの問題として捉えてもらうことである。企業理念や倫理綱領からブレイクダウンして、当部門・当事業で優先したいコンプライアンスや困っていることを吸い上げることより、コンプライアンスと実務がつながり、ひとりひとりが実行者として、前向きに取り組んでもらえることが期待できる。

 3つめの落とし穴は、一般社員層・非正規社員層に多いケースである。ひとりひとりの準拠枠(その人なりの感じ方、物の見方・考え方、態度、評価など拠り所)は異なるため、例えば「早く提出せよ」が、3時間後なのか、今日中なのか、今週中なのか、捉え方は様々である。
 あなたは、ついつい部下に以下の3禁句を言ってしまっていないだろうか。

 その1.「うまくやっておいて」 ⇒部下なりに“うまく”やってしまう
 その2.「四の五の言わず、言われたとおりにやれ」 ⇒二の句が継げず、疑問があっても上司に聞けなくなる
 その3.「社長(本社)の指示だから」 ⇒なぜやらなくてはいけないのか、自分の言葉で具体的に

部下の感じ方や考え方に応じた具体的な指示をすることが、全員参加のコンプライアンスに必要である。

 ここまで見たとおり、コンプライアンスは、組織(集団)での意思決定の積み重ねである。
 次回は、「なぜ人は、集団の中で同調しやすいのか ~集団での意思決定の際に陥りやすいワナ~」をご紹介する予定です。

【第4回のまとめ】

●『当たり前のことを当たり前に』の落とし穴は、認識のギャップに着目すると3つある
●コンプライアンスは、誰かがやるものでなく、ひとりひとりが実行者である
●上司と部下のコミュニケーションが、コンプライアンスの出発点。部下の感じ方や考え方に応じた具体的な指示を

(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子
(株)日本経営協会総合研究所 主席研究員 山根 郁子

奈良女子大学文学部卒業後、大手サービス業にて支社勤務を経て、経営企画、内部監査を担当。同社退社後、(株)日本経営協会総合研究所に入社。主に従業員意識調査、コンプライアンス意識調査を担当。内部監査の経験を生かし、仕組みや制度にとどまらない、健全な組織風土と個人の自律を支援している。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。修士(カウンセリング)。
公認内部監査人(CIA)。公認不正検査士(CFE)。経営倫理士(第15期)。産業カウンセラー。