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第11回 上司への信頼感が部下の勤続意思を強める

 近年、若年者の早期離職が大きな問題となっている。中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が卒後3年以内に離職するという、いわゆる「七五三現象」が一時期話題になったが、現在でも大卒で見れば3割ほどが3年以内に離職している状況は変わらない。

 若者が会社を辞める理由はいろいろあるだろうが、上司への信頼感も大きな要因になると考えられる。上司は、部下の行う仕事について指示監督し、また訓練や成績評価を行うなど、部下の行動にさまざまな面で大きな影響を及ぼす存在である。部下は上司の行動を観察し、もしその上司に対して信頼感をもつことができなければ、上司の存在は彼あるいは彼女にとって脅威となり、それが勤続への意思を弱めることにつながるだろう。そこで、筆者、松井賚夫立教大学名誉教授、都築幸恵成城大学教授の研究チームは、上司への信頼感が部下の勤続意思にどのような影響を及ぼすかを探ってみた。

信頼形成の10の条件

 心理学者のバトラー(K. Butler)は、過去の研究や面接に基づいて、部下から信頼される上司の条件を10にまとめている(表1)。筆者らはバトラーが作成した「信頼形成条件に関する尺度」をもとに、同様の尺度30項目を作成した。そして、会社組織で働いている成人男女88名(平均年齢31.5歳)に対して、上司がこれらの条件をどの程度満たしていると思うか回答を求めた。回答者の直属上司の8割は男性(平均年齢42.5歳)であった。この30項目の他に、直属上司に対する回答者自身の信頼感(「今の上司を信頼している」など)、および会社へのコミットメント(「この会社でずっと働きたい」など)についても回答を求めた。

表1 信頼形成の10条件(バトラー)
条件質問項目の例
availability必要な時にはいつでも会える
competence仕事上の判断が的確である
consistency言う事とする事が一致している
discreetness口が堅く安心して相談できる
fairness誰にでも分け隔てのない対応をする
integrity何事にも誠実に対処する
loyalty自分が不利になってもかばってくれる
openness自分の考えを隠さずオープンに言ってくれる
promise fulfillment約束したことは守ってくれる
receptivity言うことを真剣に聞いてくれる

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信頼される上司と嫌われる上司

 調査で得られた部下からの評価に基づいて、上司の好ましい行動を「仕事に精通し部下の力になる」「誠実・公正に部下に対応する」「オープンで率直である」の3つのカテゴリーに分類し、それぞれが部下からの信頼感にどの程度影響しているかを見た。結果は、いずれのカテゴリーも部下からの信頼感とは強い正の相関関係が見られた。このことは、これらのカテゴリーに含まれる行動がよく見られるほど、部下からの信頼も厚いことを意味する。

 次に、これとは逆に、部下からの評価に基づいて上司の好ましくない行動を「事なかれ主義で頼りない」「部下の尊厳を傷つける」「保身と出世しか考えていない」の3カテゴリーに分類し、それぞれが部下からの信頼感をどの程度損ねているかを探った。結果は、いずれのカテゴリーも部下からの信頼感とは強い負の相関関係が見られた。このことは、これらのカテゴリーに含まれる行動がよく見られるほど、部下からの信頼を損ねていることを意味する。

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上司への信頼感が部下の勤続意思を強める

 調査結果の分析からは、信頼形成条件尺度得点と上司への信頼感得点の相関が+0.72であり、上司が信頼形成条件を満たしていると評価されるほど部下からの信頼感も高いことが示された。また、上司への信頼感は、信頼形成条件と勤続意思の間を媒介していることも明らかになった。このことは、上司の行動が信頼形成条件を満たしている場合、上司に対する部下の信頼感が高まり、それが勤続意思を強めるという連鎖が成立していることを意味している。

 もちろん、部下の勤続意思に影響するのは上司への信頼感だけではない。この調査では、仕事内容への満足、同僚への満足、給料への満足についても回答を求め、それらの影響力も比較検討した。分析の結果は、信頼感は仕事内容などへの満足感の影響を超えて、勤続意思に強い影響を与えていることが示された。

 このように、部下の勤続意思には上司への信頼感が重要な役割を果たしている。上司に恵まれることは部下の会社生活、仕事人生を左右するものである。組織の活力を高める上でも、信頼される上司を目ざすことが大切である。

参考文献
Butler,J,K.(1991).Toward understanding and measuring conditions of trust: Evolution of a Conditions of Trust Inventory. Journal of Management, 17, 643-663.
角山剛・都築幸恵・松井賚夫(2007). 上司への信頼感が部下の勤続意思に及ぼす影響. 産業・組織心理学会第23回大会発表論集.
松井賚夫・角山剛・都築幸恵 (2007).『嫌われる上司の共通点「事なかれ主義・陰険・保身」』プレジデント 2007年12.3号.

【掲載日:2012年3月27日】

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角山剛 モチベーション論

角山剛 モチベーション論
「モチベーション」をテーマに、その理論背景や研究内容を、東京未来大学の角山剛教授にやさしく解説いただきながら、実務に生かすためのコツをご紹介するコンテンツです。

東京未来大学教授・同モチベーション研究所所長 角山 剛

1951年生まれ。立教大学大学院修了。東京国際大学教授を経て2011年9月より現職。専門は産業・組織心理学。モチベーションの理論的研究をはじめとして、女性のキャリア形成、職場のセクハラ、ビジネス倫理意識などモチベーション・マネジメントの視点から研究に取り組んでいる。産業・組織心理学会前会長、日本社会心理学会理事、日本グループ・ダイナミックス学会理事、人材育成学会理事。近著に「産業・組織心理学」(共著 朝倉書店)、「産業・組織心理学ハンドブック」(編集委員長 丸善)など。

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