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第42回 「承認」することの効果

 先日、人材育成関連のフォーラムに参加してきました。そのなかの研究報告に、若年者の早期離職防止には「承認」が効果的だという、とても腑に落ちる話がありました。

 自分のために歓迎会を開いてくれる、困ったことはないかと声をかけてくれる…。そんな風に、「自分という存在を気にしてくれている」と実感できることが大切なのでしょう。先輩社員から「承認」されることが、コミュニティー(組織)の一員であるという安心感につながります。それが定着へのスタートラインといえるのではないでしょうか。

 「承認」のメリットは、離職防止だけではありません。自尊感情(自分を大切に思える感覚)を育み、自己有用感(自分は役に立つ存在だという感覚)へとつながっていきます。そこまでいけば、チャレンジングな仕事にも、タフさをもって取り組むことができるでしょう。

 自信を持ちたい。人から認められたい。そうした承認欲求はごく自然なものといえますが、自分が何者であるかを模索している真っ最中の若年者、とくに就活生や新入社員では、その欲求が強いように思います。同時に、満たされにくい社会環境になっているのではないでしょうか。

 新入社員でいえば、周囲の先輩たちは忙しく、自分のやるべきことで手一杯な状態です。新人の仕事ぶりを見守り、適切な声がけをする余裕はなかなかありません。就業時間内にできるだけ仕事を終わらせようとすれば、雑談をする時間も、飲みに誘うゆとりも少ないでしょう。そもそも飲みに誘って、パワハラと思われないか気を使うご時世です。

 若年者の承認欲求を満たすには、それなりに手間がかかります。面倒な気づかいで苦労するぐらいなら、もう少し成熟した大人な学生を採用したいと考えるのは当然かもしれません。

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 しかし、大学生活のなかで、周囲から「承認」を得ることも、自己有用感を醸成することも、なかなかに困難です。いまどきの大学生活では、仲の良い友人以外は人との距離感が遠く、周囲とほどよい関係を築くことに苦手意識のある学生が大勢います。

 SNSによるコミュニケーションは活発ですが、友人同士の人間関係を強固にするためのものであって、あまり外の世界には開いていません。逆に、SNSが彼らの自尊感情を損なうことも多々あります。

 ある学生が、お気に入りの自撮り写真をTwitterに載せたところ、“いいね”の数が思ったよりも少なくて、すっかり落ち込んでしまったという話を聞きました。ネットの向こう側にいる見えない他者から「承認」を得られなかったことで、心がやられ、自信を失ってしまったのです。

 「それだけのことで落ち込むの?」と思うかもしれませんが、彼らにとって、“いいね”の数は自分の存在の大きさを意味する重要なものです。比べものにならないほど多くの“いいね”を獲得している人を見つけては、自信を失っていきます。

 就活時期になると、この傾向はより顕著になります。「自己PR」を考えれば考えるほど、自分にPRできるほどのものがないと悩むのです。話を聞けば、ゼミ活動も熱心だし、ボランティア活動にも参加している。充分にPRできるよ!と伝えても、「もっとスゴイことをしている人がいっぱいいる。それに比べて自分は見劣りする」といって、悩み続けてしまうのです。

 大人でも、ネット疲れしてしまう人がいるぐらいです。無限に広がるネットの中に存在するスゴイ人と比較して、自分がちっぽけに見えてしまう学生は少なくありません。就活中のSNSにストレスを感じて、ネットから離れる学生がいるのもうなずけます。

 そんな不安定な彼らを少しでも支えるため、普段から「承認」することを意識しているわけですが、そのときよく使う言葉があります。「すごい!(驚き)」と「ありがとう・助かる(感謝)」です。褒める行為は、縦の関係をつくってしまい、依存心を助長しかねません。気持ちが弱っていれば尚更で、どうすれば褒められるのか顔色をうかがうようになってしまいます。彼らの自立を損なわないよう、横の関係の「承認」を大切にしています。

 もうすぐ就活本番の3月を迎えます。驚きと感謝の「承認」を意識して、彼らの心の中にある“いいね”ボタンをできるだけたくさん押していきたいと思います。

【掲載日:2017/02/13】

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キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。

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